今年も中間決算シーズンが終わった。10月末から11月中旬にかけて,ITproのフォーカスサイトIT業界動向/決算では,国内IT企業36社の2008年度(2009年3月期)中間決算(一部は2008年12月期第3四半期)ニュースを掲載した。

 全体的な傾向を売上高と営業損益の増減でみると,減収減益11社,減収増益4社,増収減益3社,増収増益19社となった。半数以上が増収増益企業である。これをみる限り悪くない状況だ。

「嵐」は今度こそ迫っている

 半年前,2007年度決算が終わった直後に記事(「減収」も「減益」も少数派,情報通信業界の2007年度決算)を書いた時は,実に36社中25社が増収増益だった。

 今ほど身近には迫っていなかったものの,当時も「サブプライムローン問題」の影響が心配されていた。だがフタを開けてみれば,大きな影響を受けたのは証券会社を傘下に持つCSKなど一部に留まった。予想に反する明るい内容にひとまずホッとした記憶がある。

 だが今回の中間決算でホッとしたかと言えばその逆である。各社の発表内容や記者会見でのコメントから,IT投資の冷え込みという「嵐(それともベタ凪?)」が今度こそ迫っているという実感がわいてくるのだ。

 証券事業の不振で営業赤字になったCSKを別にして,今回もっとも大きく業績が落ち込んだ伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)。同社はその要因として,金融業や製造業の一部顧客企業が投資を抑制したこと,検収が下期にずれ込んだシステム構築案件が発生したことを挙げている。

CTCの2008年度中間決算は減収減益,顧客企業のIT投資抑制が響く
 
 同じく減収減益だった日本システムディベロップメント。高い利益率で知られる同社だが,今回中間決算発表後に通期予想を修正した。冲中一郎社長は「案件の先送りや稼働率の低下もあり,単価の上昇は厳しくなっている」としている。

日本システムディベロップメントが通期予想を下方修正

 ネットワーク分野でも,案件を延期あるいは凍結する動きが出始めている。IIJの鈴木幸一社長はSI分野が予想より伸びなかった要因について,「景気の影響で案件の延期も増えており,一部のトラブル案件の処理に手間取った」などとコメントしている。

IIJの中間決算は増収減益,好調の「IIJモバイル」はWiMAX対応を予定

増収増益組も慎重姿勢

 増収増益組も,先行きを警戒して慎重な発言が目立った。

 例えばNTTデータの山下徹社長は,「世界的な景気後退の影響もあり,下期以降のビジネスの見通しを7月時点に比べて変更した。今年度の決算には大きな影響はないが,来年度以降は予断を許さない状況だ」とコメントしている。

NTTデータの4-9月期決算は2ケタの増収増益,金融分野が好調

 このほかにも富士通ビジネスシステム,住商情報システムなど多くのIT企業の発表で,IT投資の冷え込みを警戒する発言があった。

FJBの2009年3月期中間決算,上期では8年ぶりの増収増益
住商情報システムの第2四半期決算は増収増益,ERP事業が順調に推移

2度のバブル経験を今こそ

 先行きが不安になる材料の多い2008年度中間決算シーズンだった。だが実は個人的にはそれほど悲観していない。

 今のIT企業の多くは1990年代前半のバブル崩壊,2000年代前半のITバブル崩壊を乗り越えた企業である。人員削減や経営層の交代といった対外的に分かりやすい対策だけでなく,打たれ強い組織になるための取り組みを内部で継続している企業も多い。

 例えば,ヘルプデスクや運用サポートなど,看板事業の優位性を維持するための先行投資を優先して進めているNECフィールディングや,受注案件の選別や不採算案件の早期発見など,本業での組織力向上に取り組む日本ユニシスなどがある。

NECフィールディングの08年4-9月は増収増益,保守堅調で通期見通し変えず
日本ユニシスの中間決算は減収増益,不採算案件の減少で採算性が向上

 日本のIT業界に,果たしてどれだけ大きな「嵐」が迫っているのだろうか。早ければ次の決算シーズンである2009年5~6月には,はっきりするだろう。


■変更履歴
公開当初,本文中で日本システムディベロップメントの冲中一郎社長の名字を「沖中」と誤記していました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/11/28 09:42]