WWW関連技術の標準化を進めるWorld Wide Web Consortium(W3C)は,米Eolas Technologiesの所有するWWWブラウザ関連の米国特許が無効であると主張し,米国特許商標局(USPTO)に再審査を求めた。W3Cが米国時間10月29日に明らかにしたもの。W3Cは,「同特許を最初に審査する際や,先ごろ行われた特許侵害訴訟において,重要な先行技術を検討していなかった」としている。

 問題の特許の米国特許番号は5,838,906。タイトルは「Distributed hypermedia method for automatically invoking external application providing interaction and display of embedded objects within a hypermedia document 」。1994年10月17日に申請し,1998年11月17日に成立した。10件のクレームから成る。

 「'906特許」と呼ばれるこの特許について,W3CディレクタでWWW技術の発明者でもあるTim Berners-Lee氏が知的所有権商務次官のJames E. Rogan氏に文書で再調査を要求しており,無効の根拠となる先行技術も提示したという。

 W3Cは,「'906特許が発明したとするWWWブラウザと,'906特許自体が先行技術と認める通常のブラウザの違いは1つしかない」と説明する。「'906特許の記述によると,先行技術のWWWブラウザはコンテンツを新しいウィンドウに表示するのに対し,'906特許の発明したブラウザはコンテンツを同一ウィンドウ内に表示するとしている。しかし,外部プログラムが同一ウィンドウにコンテンツを表示/埋め込み/生成するこうした機能は,我々が提出した先行技術で記述済みだ」(W3C)

 W3Cでは,「'906特許が対象としているらしいオブジェクト組み込み技術は,WWWが利用され始めた早い時期からHTML標準の一部となっていた」とする。「この技術はWWWブラウザに重要な柔軟性をもたらし,ブラウザの機能を拡張する重要な仕組みをユーザーに提供する。現在ほとんどすべてのWWWユーザーが(オブジェクト組み込み技術を応用した)プラグイン・アプリケーションを利用し,ストリーミング・オーディオ/ビデオ,高度なグラフィックス,さまざまな用途のツールを使っている」(W3C)

 こうしたことから,Berners-Lee氏は「すでに普及した技術の利用を困難にする'906特許を認めると,WWWを運用することで莫大な経済的/技術的な損害が発生してしまう」と述べる。

 W3Cは,'906特許が以下に示す悪影響をもたらすと主張する。

・'906特許を回避するための修正は過去の重要なWWWページにも施すことになり,その数は膨大だ。多くの場合こうしたページは非営利目的か,すでに利益を得られないほど古い。そのため,ページ修正にかかる経費をまかなう方法が存在しない。

・仮に'906特許が今後も有効だとすると,WWW標準に従ってオブジェクトを組み込んでいたWWWページ作成者は,特許を回避するための対応に迫られる。たとえ作成者が特許を侵害していなくても,ブラウザが従来と同じ(特許侵害となる)動作を行わないように,WWWページやアプリケーションを書き換えるコストが発生してしまう。

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