米SCO Groupが,「自社が権利を有するコードがLinuxに不正に流用されている」として,米IBMを告訴し,ユーザーに料金を請求している問題で,SCOとLinux陣営の間で論争が続いている。

 SCOや同社と対立する企業の主張は,IT Proでも頻繁に紹介している(SCOがオープンソース・コミュニティに書簡,コミュニティ内の自制を求めるなど)。一方,コミュニティの主張は,これまであまり紹介できていなかった。しかし,コミュニティの中心メンバーによる主張は,コミュニティ内部だけでなく,産業界や米メディアにも影響を与えている(関連記事)。だからこそSCOがかみ付き,論争を仕掛けているのである。

 そこでこの記事では,この問題に大きな影響を与えているコミュニティ側の主張を紹介しつつ,SCOとLinuxコミュニティによる論争の争点を整理してみたい。

「流用された」とするコードは,本当にSCOが権利を有するのか

 そもそも,この“論争”には,根本のところで不透明な点がある。それは,SCOが「流用された」とするコードを具体的に明らかにしてこなかったことだ。実は,Linuxコミュニティの中心人物の何人かが,SCOの主張の“根拠”を入手し,反論している。

 Bruce Perens氏は,ボランティア・ベースのLinuxディストリビューションDebian GNU/Linuxの開発や,Open Source Initiativeによるオープンソースの定義策定などで知られた人物だ。このPerens氏が,同氏のホームページで,SCOが2003年8月,機密保持契約を結んだ相手だけに向けて行ったプレゼンテーションを公開している。

【追記 2003-10-02】Perens氏がプレゼンテーションの写真を掲載した後,SCOは米IDG News Serviceに,機密保持契約なしにプレゼンテーションのファイルを渡した。現在Perens氏が公開しているファイルは,このファイルである。

 プレゼンテーション資料の中で,SCOが権利を持つとするUnix System VからLinuxにコピーされたとする部分を2個所示している。1個所は,Berkeley Packet Filterと呼ばれるファイアウオール機能を実装している部分である。確かに,コメントも一字一句一致する部分がある。しかしPerens氏は,この部分は米California大学Berkley校で開発されたBSD UNIXに由来し,BSDライセンスによりオープンソース・ソフトウエアとして公開されているものであることを示し,SCOが所有するものではないと分析している。

 もう一個所はメモリー割り当て機能で,米SGIに由来するものだが,シンタックス・エラーがありコンパイルできず,Linuxから削除されたものという。それらが参照するコードも,SCOの前身である米CalderaによってBSDライセンスのもとでオープンソースとしてリリースされたもので,著作権やトレード・シークレットの侵害には当たらないとしている。

 Open Source Initiativeの代表で,オープンソースの開発スタイルを論じた「伽藍とバザール」や米Microsoftの内部文書を暴露した「ハロウィン文書」で知られるEric Raymond氏も,同じプレゼンテーション資料に基づいたさらに詳細な分析を公開し,同様な結論を導き出している。

 これに対し,SCOのCEOであるDarl McBride氏は,2003年9月9日付けのオープンソース・コミュニティへの公開書簡で,Perens氏らが公開した資料を「そこにあってはならないもの」と非難し,そして「このコードは制限された条件のもとでSilicon Graphicsにライセンスされたもので,このような論理によって正当化できるものではない」と述べている。この部分のほかにも「SCOが権利を持つUNIX System Vの100万行を超えるコードがLinuxに流用された」と主張している。

 Eric Raymond氏とBruce Perens氏は,これに対し再度反論し「100万行のコピーという主張は数学上不可能」と指摘した。カーネル2.2から2.4で増加したコード行数が約100万行である。SCOのMcBride氏はカーネル2.2には問題がないと語っている。だとすると,2.4への貢献がほぼすべてSCOによるものとなってしまう。それはありえない,という指摘だ。

「侵害個所を示してくれればすぐに法に則り対応する」

 そもそも,具体的な侵害個所が明確になれば,問題は解決するというのがコミュニティの主張だ。Raymond氏とPerens氏は反論の中で「コードを示して(show us the code)」と訴えている。「そうすれば,速やかに法に従い,コードを削除するか,それが正当な手続きに従い組み込まれたことを証明するだろう」

 これに対し,SCOは「ライセンス契約を締結していない相手には,いかなる事情があってもコードを見せないことにしている」(CEO Darl McBride氏のインタビュー)という。

 だが,SCOの論理は一般常識からいってあまり理解されないようだ。米The SCO Group, Inc.の子会社であるドイツThe SCO GmbHは,ドイツの裁判所から1万ユーロ(約125万円)の罰金を課された。SCO社が「Linuxに知的財産が不正に含まれている」などを明確な証拠を示さずに主張し続けたためだ(関連記事発表資料)。

 ドイツのソフトウエア開発会社tarent GmbHと,Linux展示会の運営団体LinuxTag e.V.が訴えていたもので,SCOのやり方は,いわゆる根拠なくFUD(恐怖,不安,疑惑)をあおる手法であるという訴えが認められた形だ。

日米のユーザー,ベンダーは冷静

 SCOの狙いは,手札(「流用された」と主張するコード)を伏せたまま掛け金を吊り上げることなのだろうか。現時点では,そう断定することはできないが,いずれにしてもLinuxのユーザーは,SCOが発する声明に対して,不必要に恐怖や不安にかられることなく,冷静に対処する必要があるだろう。

 実際SCOは,実にこまめにプレス・リリースや声明を発表している。米Hewlett-Packardが「自社の顧客に,SCOの法的行為に対する免責保証を提供する」と発表(関連記事)すれば,SCOはすかさず「HPは問題が存在すると認めた」とするコメント関連記事)を発表する,といった具合だ。

 幸い,ユーザーはこうしたSCOの動きを冷静に判断している。日経マーケット・アクセスがユーザー企業に対し行なった調査結果を2003年9月1日に公表しているが,回答した313社のうち,「Linuxを使ったシステム構築に,今までよりも慎重に取り組みたい」という企業は7.3%に過ぎなかった。「Linuxに対する取り組みに大きな影響はない」が17.3%,「Linuxの利用今後も利用を拡大させたい」が20.4%に上っている。日本の大手サーバー・メーカー,NEC,日立製作所,富士通も,Linux事業への影響はほとんどない,としている(関連記事)。

 米国でも,米Evans Dataの調査によれば,70%以上がSCO問題は自社のLinux導入に「おそらく」あるいは「全く影響しない」と答えている(関連記事)。「影響する」と答えたのは12%だった。

GPLは無効と主張するSCO

 今後,企業同士の争いは法廷が主戦場になる。2003年8月4日に米Red Hat SotwareがSCOを反訴した(関連記事発表資料)のに続いて,IBMも8月6日,SCOを特許侵害や事業妨害を行なったとして反訴。9月26日には,SCO社がIBMの著作権も侵害したとして追訴した。

 法廷では,具体的にどの部分が侵害にあたるかどうかのほか,「GPL(GNU Public License)は著作権法と整合せず無効である」というSCOの主張も俎上(そじょう)に載ることになる。GPLはLinuxなどが準拠している代表的なオープンソース・ライセンスだが,米国の著作権法と矛盾する部分があるため効力を持たないというのだ。

 SCO問題をめぐる動きは,オープンソース・ソフトの専門サイト「IT Proオープンソース」のホット・トピックスというコーナーでまとめており,今後も継続して報告していきたい。

(高橋 信頼=日経システム構築)