米The SCO Groupが主張する「Linux知的財産権侵害問題」が業界で波紋を広げている。同社は今年3月,同社のUNIXソース・コードがLinuxカーネルに不当にコピーされたとして米IBMを訴えた。「LinuxはUNIXの海賊版」などとし,Linuxを商用利用している企業ユーザー,約1500社に対し警告文を送りつけた(掲載記事)。そして7月,こうした企業に対し知的財産のライセンス料を請求していく意向を正式表明,8月5日にライセンス料を発表し,料金徴収を始めた。

 これに対し,これまで静観し続けてきた米Red Hatが8月4日にSCO社を訴えた(関連記事)。2日後の6日にはIBM社もSCO社を提訴した(関連記事)。「SCO社の行為は不正な詐欺行為」(Red Hat社),「SCO社はLinuxが同社の独自技術とは主張できない」(IBM社)と反論,SCO社に対する徹底抗戦を宣言した。

 渦中のSCO社とは,ユタ州に本社を置く,従業員300人程度の会社である。最近発表した四半期決算でもその売上高はわずか2010万ドル(2003年5~7月期),IBM社の216億ドル(2003年4~6月期)とは比べものにならない小さな規模。Linux市場においても,そのシェアはわずか数パーセント程度と言われ,Red Hat社には遠く及ばない(関連記事)。そんな小さな会社がこうした大手を相手に訴訟合戦を繰り広げている。SCO社は勝訴の決め手があると言っているが,その信ぴょう性はよく分からない。そもそもこの係争で同社が問題にしているソース・コードの権利についても,米Novellとの間で決着がついていない。今回は同社の成り立ちや,これまでの経緯を振り返りながら,これら疑問について探ってみたい。

■複雑な経緯で知的財産権を取得

 まず,SCO社がなぜUNIXに関する知的財産権を持つことになったのかについて見てみよう。それには,SCO社の複雑な成り立ちを振り返ってみる必要がある。SCO社の前身は,Linuxシステムの開発を手がけていたCaldera社という会社である。これが1998年に,Linuxベースの企業向けソリューションを開発する会社,Caldera Systems社を立ち上げた。そして,この会社が2001年に,現在のSCOの名の元となったThe Santa Cruz Operation社のServer Software部門とProfessional Services部門を買収した(関連記事)。これにより,Caldera International社という会社ができたが,この会社が2002年に社名を変更した(関連記事)。これが現在のThe SCO Group(SCO社)だ。

 The Santa Cruz Operation社は当時,UNIX System Vの権利を持っており,UNIX System Vの商用OSを最初に提供したベンダーである。UNIX System Vとは,米AT&Tのベル研究所が開発したオリジナルのUNIXから派生して開発されたUNIXで,カリフォルニア大学バークレイ校で開発されたBSDと並び,UNIX系OSの2大系統の1つとなっている(参考資料:日立システム&サービス)。商用UNIXの多くがこのSystem Vをベースとしており,現在,SCO社からライセンスを受けている。米Sun Microsystemsの「Solaris」,IBM社の「AIX」,米HP(Hewlett-Packard)の「HP-UX」などがその代表例である。

 ちなみにThe Santa Cruz Operation社がUNIX System Vの権利を持つことになった経緯も複雑である。UNIX System Vは,まず,AT&TからUSL(UNIX System Laboratories)社に移管され,次に,このUSL社を買収したNovell社のもとに移った。その後,Novell社がUNIX部門をThe Santa Cruz Operation社に売却,そして最後にSCO社(当時のCaldera Systems社)に移った。

■商用系UNIXがフリー系UNIXにコピーされた?

 これらの背景を踏まえた上でこれまでの一連の経緯を振り返ってみると,SCO社の行動の意図が分かってくる。

 まず,SCO社がIBM社を訴えた理由であるが,SCO社によると,IBM社はSCO社からライセンスを受けているUNIX System Vのソース・コードを違法にLinuxにコピーした。IBM社はこのころから同社製コンピュータをLinuxに対応させるなど,Linuxに対する取り組みを強化しており,その活動の中でSCO社のソース・コードをLinuxカーネルにコピーしたというわけだ。そしてこのことは,SCO社とIBM社が結んだ契約に違反していた――。これがSCO社の主張である。また,SCO社はIBM社提訴時に「もし,IBM社が100日以内に契約違反の行為を是正しない場合,AIXに提供しているライセンス契約を打ち切る」と警告していた。

 SCO社にしてみれば,商用のUNIX System Vを同じく商用のIBM社AIXに対してライセンス供与していたはずなのに,それがいつのまにか,Linuxに移植されてしまったということになる。

 ご存じのようにLinuxは,GPL(GNU General Public License)というライセンス体系の下に,誰でも自由に改変・再配布でき,また改変を行った場合,その部分をGPLに基づいて公開しなければならない。商用であるSCO社のソース・コードが,無償利用可能なLinuxの中に入り,全世界に公開されてしまったというわけだ。

 ところが,SCO社のこうした主張には3つの弱点があると言われている。以下でそれらを順に見てみよう。

■自らも“海賊版”を販売

 弱点の1つ目は,SCO社もLinuxのディストリビューション「SCO Linux」を販売していたという事実である。「SCO社は自社でもGPLの下,Linux製品を販売しておきながら,そのLinuxを“UNIXの海賊版”と称している。同社の言っていることは矛盾しており,Linuxの権利は主張できないはず」というのがIBM社の主張である。SCO社もこの矛盾を意識したようで,今年5月にSCO Linuxの新規販売を中止している(SCO社の発表資料)。

 しかし業界では,SCO社がこれまでSCO Linuxを販売してきたことが問題とされている。今後は,同社がどのような認識でSCO Linuxを販売していたのかということが焦点になると言われている。もし同社が「UNIXの知的所有権をLinuxが侵害している」ことを認識して販売していたとすれば,同社が現在展開している主張は通らなくなるのだ。

■Novell社は「SCO社には譲渡していない」

 2つ目の弱点は,Novell社とSCO社の間の認識の相違である。Novell社はUNIX部門をThe Santa Cruz Operation社に売却したが,Novell社はこのことに関して「当時締結した資産移転契約において,当社はUNIX System Vの著作権と特許を譲渡していない」と言っている。さらに,Novell社は次のようにも説明している。「これまで,SCO社は当社に対して著作権を譲渡するよう要請を繰り返している。つまりUNIX System Vの著作権と特許の所有に関しては,SCO社も我々と同じ考えを持っていると考えられる」(Novell社の発表資料)。

 これに対し,SCO社は6月に,「Novell社からUNIXとUnixWare技術のすべての権利を取得していることを示す修正契約書が出てきた」と発表した。1995年9月19日の資産買収契約「Asset Purchase Agreement」に関連して1996年10月16日に結んだ修正契約「Amendment No. 2」がそれだと言っている。

 しかし,Novell社は「当社のファイルにはそんな修正契約書は存在しないと」反論している。「SCO社に見せられたその書類には,UNIXの一部の著作権がSCO社に移ったことが書かれているようだが,特許の所有権については触れられていない。したがって特許の所有権が当社にあるのは明らか」(Novell社)としている(関連記事)。

 SCO社はこのころから,IBM社訴訟の争点を修正している。「IBM社はUNIXの“著作権”も侵害している」とし,争点をこれまでの契約違反から著作権侵害にまでに広げたのだ。そして6月16日には,100日間の猶予期限の切れたとしてIBM社へのライセンス供与を停止,同時に和解金の額を当初の10億ドルから30億ドルに引き上げた。

■「コピーされたソース・コード」の信ぴょう性

 3つ目の弱点と言われているのが,コピーされたソース・コードの信ぴょう性である。SCO社はこれまで,明確な根拠を示さぬまま知的財産権を主張しており,これがRed Hat社に訴えられた1つの理由でもあった。

 しかし8月18日,SCO社のカンファレンスで,問題とされるソース・コードを公開した。米CNET News.comに掲載された記事によると,出席した人の感想の中には「(コピーされたソース・コード)はかなりの量に及ぶものだったので驚いた」や「スペル・ミスやコメントまでもがコピーされているとは驚いた」というものがあったという(掲載記事)。一方,CNET News.comの別記事では,「公開されたソース・コードの一部は,1970年代にまでさかのぼるもので,すでにBSDライセンスのもと公開されている」とも伝えられている。

 また,Open Source Initiativeの共同創設者でDebian Linuxの開発を支援した人物として知られるBruce Perens氏が同誌のインタビューに答えて,「SCO社が見せたソース・コードはインチキ」と発言している(掲載記事)。ようやく重要証拠となるソース・コードの公開に踏み切ったSCO社だが,その信ぴょう性を巡っても波紋が広がっているのだ。

■ライセンス料は高額だが,Microsoft社が早々と契約締結

 この係争の行方は,業界関係者のみならずユーザーにとっても目が離せないものになる。なぜなら,SCO社が決めたライセンス料金は,10月15日までのキャンペーン価格でデスクトップ版の場合199ドル,サーバー版で699ドルになる。サーバー版は10月16日移行1399ドルになるという。これに比べ,例えばRed Hat社のデスクトップ標準版のライセンス料は39ドルだ(関連記事)。これは,Linuxがこれまでのような環境で利用できなくなることを意味する。

 また,SCO社は組み込みLinuxについても料金徴収の対象にする意向のようだ。この場合の料金は組み込み機器1台につき32ドルという(関連記事)。

 もし,SCO社が裁判で勝てば,同社には膨大なライセンス料が入ってくる。そのことを好感してか,同社の株価は上昇している。また同社の幹部がそれに乗じて個人所有のSCO株を大量に売却しているというニュースも報じられている(掲載記事)。

 なおSCO社はすでに,同社とライセンス契約を結んだ企業を明らかにしているが,その中にいち早く契約した企業がある。米Microsoftである。Microsoft社にとってLinuxは大きな不安要因。だからこそSCO社のライセンス契約にすぐに乗った。「Microsoft社は今回の行動で反Linuxの姿勢をあからさまに示した」などと非難されている。

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