写真上 沖電気工業が販売していた
携帯型IP電話機「WSP-500」

 「N900iL指名でモバイル・セントレックスの案件が来ることが多く,これほどまでに関心が高いとは思わなかった」,「N900iLのモバイル・セントレックスは,IPセントレックスより大幅に立ち上がりがいい」--。システム・インテグレータ各社は,FOMA/無線LANのデュアル端末「N900iL」を使ったモバイル・セントレックスのブーム加熱にうれしい悲鳴を上げている。

 だがその一方で,戦略の立て直しを迫られているメーカーもある。携帯電話機能を持たない,いわゆる内線専用の携帯型IP電話機を開発していた企業である。沖電気工業は携帯型IP電話機「WSP-500」を2004年10月から出荷していたが,販売を取りやめた(写真上)。「モバイル・セントレックス案件のほとんどがN900iL関連。今後はN900iL一本で行くかどうかを含めて戦略を練っている最中」(沖電気)と苦しい胸の内を明かす。

 当初はどのシステム・インテグレータも,FOMAと無線LAN機能を持つN900iLと,内線用の携帯型IP電話機は共存すると見ていた。営業担当者のように外からも携帯電話として使う必要があるユーザーにはN900iLは適している。一方,経理部門のように社内での事務が大半を占める内勤ユーザーには携帯電話機能はあまり必要ない。毎月の基本料が発生しない携帯型IP電話機のほうが適していると考えられていた。

 しかし,N900iLの発売が始まった2004年11月以降,ふたを開けてみると様相が異なってきた。システム・インテグレータから聞こえてくるのは冒頭のコメントにあるようにN900iL一色の案件ばかり。その理由はいくつか推測できる。

「白ロム端末」販売がN900iLブームを加速

 一つは端末の取り引き価格。N900iLの取り引き価格は,2004年11月のN900iL正式発表の直前までSIベンダーでさえつかめていなかった。いくらくらいという声もあったが,実際は予想より安価だった。現在の価格は,1台当たり4万5000円前後と言われている。

 一方,携帯型IP電話機の標準価格は大半が3万円台。数千台の大規模導入ならこの価格差はずしんと響く。だが,モバイル・セントレックス・システムでは数十台単位の試験導入から始まることが多い。そうなるとこの程度の価格差は,ユーザーには導入をためらう理由とはならないのだ。

 携帯の基本料は毎月発生するため,端末の価格差以上に大きい。だが障害が発生したときなどに備えて,いざというときに携帯電話として利用できるN900iLのほうが「何かと役に立つ」と前向きに考えているユーザーが多い。少々高くても,安心感を買っているようだ。

 二つ目の要因は,携帯電話契約しないでも使える「白ロム」という販売形態が広がりつつあること。つまり,携帯電話契約がないN900iLでも,社内で使う携帯型IP電話端末として導入できるようになるわけだ。

 白ロムは月々の通信費の収益を見込めないため,NTTドコモがほとんど認めないと思われていた。だが現状では,端末の単価を契約ありの場合よりも高く設定するなど条件次第で認めている。数百~数千台規模の白ロム端末導入に向け話を進めている企業も出てきているほどだ。

 白ロム端末の販売は,N900iLの利用を後押ししている要因となっている。企業は社員の業務形態に関係なく,同一端末をそろえられるためだ。情報システム部門にはN900iLとその他の端末の両方でテストするといった手間もかからない。使い方に関するドキュメントなどを二種類そろえる必要もなく,ユーザーに周知しやすい。

イントラネット端末としての魅力があるN900iL


写真下 日立ITが開発した
新端末「SIP:Air@Phone」

 N900iL端末の機能面に関しても優位点がある。ユーザー企業が魅力として挙げているのが,イントラネット端末としての利用。N900iLは無線LAN対応のブラウザを搭載することで,イントラネット端末としてニーズに応えられる。

 例えば,社内用の電話帳システムが有益なアプリケーションになる。社内用の電話帳システムがWebアプリケーションになっていれば,N900iLのブラウザからアクセスするだけで利用できる。ブラウザフォンなのでクリックにより,そのまま電話するといったことも可能だ。しかも白ロム端末からでも,無線LAN経由でサーバーにアクセスできるため,アプリケーションの操作性を全ての社員で同一にそろえられる。

 さらに,顧客電話番号をセンターの電話帳に登録・保存できるようにアプリケーションを拡張して,出先で携帯電話を紛失しても端末にデータが残らないようにすれば,情報漏えいの被害を抑えられるというメリットも出てくる。

 携帯型IP電話機メーカーも当然,こうした状況に手をこまぬいているはずがない。N900iLとの差別化を図るために,今後低価格端末や付加価値を追求した端末を投入してくるだろう。  実際,日立インフォメーションテクノロジー(日立IT)はグループ内に端末メーカーの日立電線がいるにもかかわらず,低価格を追求した新端末「SIP:Air@Phone」を独自に投入する予定だ(写真下)。携帯型IP電話機メーカーの出方次第では,N900iLを含む端末の覇権争いが激化だろう。

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(2)インテグレータがこぞって「N900iL」を自社で使う理由
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(4)“N900iLブーム”で見直し迫られる携帯端末メーカー
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