(2001.2.7,Jill Morneau=TechWeb News

 顧客への書籍推薦の料金を出版社から徴収するという米Amazon.comの計画は,小規模な出版社をWWWサイトから遠ざけることになりうる,と観測筋は語っている。

 オンライン小売り大手のAmazon社は,顧客向けの電子メールで書籍を推薦する代わりに,その料金を出版社に負担させようとしている。Amazon社はこれを出版社に提供するサービスとして位置づけている。これにより出版社は,書籍をAmazon社のWWWサイトでより目立つように掲載することが可能となる。これについては,「出版社とのタイアップ・プログラムを拡張したもの」とAmazon社広報のKristin Shaefer氏は説明する。

 Schaefer氏によれば,同社はこの料金が小規模な出版社に影響を及ぼすことはないと考えているという。

 「このプログラムの対象以外の書籍の推薦も続ける。また出版社が料金を払ったとしても,その書籍が電子メールで掲載されるという保証はない」(Schaefer氏)。

 最終的な判断は電子メールの編集者にまかされるとSchaefer氏は説明する。出版社が支払うのは推薦書籍として検討してもらうための料金。これを支払っていても,編集者の判断によって推薦しない場合もあり,そのときは料金の払い戻しを行うという。

 Wall Street Journal誌によれば,電子メールでの推薦とWWWサイトでのプロモーションに出版社は最高1万7000ドルまで支払うことができるという。なおSchaefer氏は料金についてのコメントは避けている。

 “Dog Days”の著者である小説家のDan Lyons氏は,有料化によって小規模な出版社は打撃を受ける可能性があると指摘する。

 「私のような小説家は明らかに被害を受けるだろう。私の出版社には私の本を宣伝するための巨額の予算はこれまでも取っていなかったし,1万ドルも払って私の本をAmazonで宣伝したりなどしないのは確かだ。一方,Barnes & NobleやBordersといった実店舗の書店では,出版社は金を払って店内のリストに名前を載せてもらう。Amazonはリアルな店舗がすでに行っていることを真似ているのかもしれない」(Dan Lyons氏)

 ニューヨークの独立系小規模出版社Four Walls Eight Windowsは,そんなお金は集められるわけがないとコメントしている。

 「1万7000ドルは大手出版社にとっても大金だ。出版業界はほかの業界と比べて資金に余裕がない。出版社というのは“小さなジャガイモ”(小規模)。たとえ中規模の出版社でもそんな金は払えないだろう。おそらくグリシャムや“ハリー・ポター”なら話は別だろうが」(同社のJohn Oakes氏)。

 あるコンピュータ書籍の出版社は,推薦料は「金がものをいう」という考え方を再認識させることになる,と語る。

 「出版社にとっては不利だ」と語るのはカリフォルニア州セバストポルの米O'Reilly & Associates創設者でありCEOのTim O'Reilly氏。同社は年間70冊の書籍を出版している。「小規模な出版社は,顧客に本を提示する際に,お金の役割をあらためて認識させられることになる。これまでにも,需要はあるのに料金を支払わない限り書店がその本の在庫をもとうとしない,といういやな経験を何度も味わった」(同氏)。

 なおO'Reilly社の事業収益において,Amazon社の小売り販売がかかわる割合は10%ほどになる。O'Reilly社は小規模な出版社とは違い,払おうと思えば推薦料を払うことは可能である。しかしO'Reilly氏によれば同社の売り上げの多くが米Barnesandnoble.comの運営するfatbrain.comに移っているという。

 「これらの大手小売業者の多くが本来の事業に従事していないのを見るのは残念だ。彼らは商品を販売しながら,広告スペースも販売している。これは多くの書店にとって主要な収入源となっている。このことには多くのプラスとマイナスがあるが,そのために彼らの魅力のある部分が失われており,ほかの業者にビジネス機会を明け渡してしまうという結果になっている」(O'Reilly氏)。

 マサチューセッツ州ケンブリッジの調査会社Forrester Researchの上級アナリストであるDan O'Brien氏は,Amazon社のこの計画が成功すれば,競合企業が先例を真似ようとこのビジネス・モデルに殺到するとみている。

 「出版社にコストを負担させることが可能とわかれば,彼らはそうするだろう」(O'Brien氏)。

 ミシガン州アナーバーにあるBorders Groupの電子商取引部門であるBorders.comは,書籍の推薦を有料にする計画はないと語る。

 「当社の書籍推薦は専門の買い手と検討したうえ,当社のスタッフが行なっている」(Borders.com社総務副社長のAnne Roman氏)。

 なおAmazon社の今回の書籍推薦有料化計画は,利益向上を目的とした同社の新たな試みの一環として生まれた。先月末に広く報道された通り,Amazon社CEOのJeff Bezos氏は社員に対して,「今は無駄を省いて利益を生む製品ラインに重点を置く時期」と伝える社内メモを回した。

 これは,利益よりも絶え間ない拡張を優先していると見られていた企業にとっては一大転換だったといえる。同社はこれまで,Bezos氏のリーダーシップのもとベンチャー事業に資金を注ぎ,書籍以外の広範な消費財を取り扱い商品に加えてきた。

 だがここへ来て,WWWで最も人気があり顧客の満足度の高いサイトという評判を維持してきたAmazon社は,株価が利益を圧迫している事実についに気づいたようだ。1月末の決算報告では,同社は景気に関係なく第4四半期までに黒字転換を目指すと発表している。その後同社は従業員を削減し,製品ラインを縮小するための準備を進め,さらに二つの事務所を閉鎖した。

 また今週には「Amazon Honor System」を発表した。これはユーザーが気に入ったサイトに寄付できるというシステムである。同社はこれが新たな収益源になるものと期待している。

Copyright(c) 2001 CMP Media Inc. All rights reserved.

[記事へ]

◎関連記事(IT Pro注)
WWWコンテンツ有料化の波? 米アマゾンがWWWサイトに“薄謝”送るシステム
【米国最新IT事情】サイバー・スペース無料時代の終焉?:問い直される情報の価値
「我こそが1-Click特許保有」と米OpenTV,自社特許の適用範囲拡大を申請
AppleがAmazon.comから「1-Click」特許のライセンス供与を受ける
barnesandnoble.com,「1-Click」技術の使用差し止め命令に対し反論
【TechWeb特約】Amazom.comが顧客情報の譲渡でプライバシ条項を一部改訂
【米国最新IT事情】株価急落! 正念場を迎えるAmazon.com
【アナリストの眼】広告収入とからみあい,さらに精緻になるWeb上の「無料」サービス
米アマゾンQ4決算速報,40%増収で「業績目標達成」