米Amazon.comの株価が米国時間6月23日に,20%下落して34ドルとなり,過去1年間の最安値を記録した。同社の株価は今年に入って55%も下落している。3月以来,インターネット関連企業の破綻やレイオフが目立ち始めたが,ついにAmazon.comのようなトップ企業まで経営危機説が流れるようになった。

 株価急落の直接的原因は,投資銀行Lehman BrothersのアナリストであるRavi Suria氏が6月23日に発表したレポート。このなかで同氏は,「Amazon.comは今のままでいけば,1年以内に資金を使い果たす」と予想した。さらにAmazon.comの財務状況を「実世界でいえば,3流の小売り企業の経営状況よりももっと悪い」とこき下ろした。Suria氏だけでなく,長らくAmazon.comの株価を囃し立ててきた米Morgan Stanley Dean Witterの花形アナリストであるMary Meeker氏でさえ,同社に関し弱気の発言をするようになった。

 Amazon.comは過去1年半のあいだに,20億ドルもの転換社債を発行している。株価が急落したために,同社は株の代わりに現金で,20億ドル分の利子や元本を支払わなければならない。格付け会社の米Standard & PoorsはAmazon.comの社債を「ccc+」,同じく米Moody'sは「caa3」と評価している。いずれも「完全に投機的なジャンク・ボンド」という位置付けだ。

 借金を返済するには,再度株式を発行したいところだが,その選択肢はほぼ閉ざされている。Nasdaqの株価は持ち直しているが,ネット関連株は低空飛行を続けたままだ。こうした逆風下で株式発行することは,バックについている投資銀行が大反対する。結局,手持ちの運営資金を割いて何とかやりくりするしかない。しかし,それを使い切るまでに利益を上げることができるかというと,見通しは暗いようだ。

 99年のクリスマス商戦の前にAmazon.comは,投資家や銀行から「今度こそ利益を出してくださいよ」と,いわば最後通牒に近い要求を下されたと言われるが,同社は期待に応えることができなかった。Amazon.comに対する投資家の信頼は,かなり傷ついている。同社の2000年第1四半期の赤字額は3億800万ドル。前年同期比の5倍に膨れ上がった。しかし売上高は95%増と予想を上回っている。経営体質は以前と全く変わっていないのである。

 Amazon.comは財務問題のほかにも,様々なトラブルを抱えている。ライバルの米barnesandnoble.comと争っているビジネスモデル特許係争では,Eコマース業界全体から「強欲だ」と集中砲火を浴びた。1月に行ったレイオフも会社の評判を落とした。消費者から集めた個人データの扱いに関して,2件の訴訟も抱えている。これについては,米連邦取引委員会(FTC)の取り調べも受けてた。

 同社の会長兼CEOのJeff Bazos氏は昨年,タイム誌から「99年の男」に選ばれるなど,順風満帆のビジネスを展開してきたが,今年に入って流れが反転したようだ。

 この正念場の乗り切れるかどうか,Eコマース業界全体が注目している。


(小林雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net