「固定電話があるのに,家の中でも携帯電話を使って通話してしまう」――。読者の中でもこんな方は多いだろう。これは世界的にみても同じ傾向にある。そのためもあり,主要な通信事業者の固定系の通話料収入は,年々減り続けている。

 危機意識を抱く世界の通信事業者は,ここにきて固定電話と携帯電話の融合に向けて大きく動き出している。両者を融合することで,事業者に新たな収益とコスト削減を,ユーザーには新たなメリットを打ち出そうと考えているのだ。

 このような動きは,固定(Fixed)と携帯(Mobile)を融合(Convergence)させるという意味で,「Fixed Mobile Convergence(以下FMC)」と呼ばれている(関連記事)。FMCは,通信分野の最もホットな話題の一つといっても過言ではない。筆者はこのFMCの動きを捉えるべく,最大の震源地であるヨーロッパに飛び,その取材結果を日経コミュニケーション5月1日号の特集にまとめた。

 FMCサービスとして考えられる形態は,固定電話と携帯電話の料金を一つにまとめるシンプルな形から,一つの端末と一つの番号で固定電話と携帯電話の両方を利用できる形などさまざま。一部で料金の一本化サービスをすでに開始した事業者もあるが,多くの通信事業者にとっては,FMCサービスは実現に向けてまさに動き出した段階だ。

世界の注目を集める英BTの「Bluephone」

 そんな中,世界の注目を集めるFMCサービスが,開始を間近に控えている。英BTの「Bluephone」だ(関連記事)。

 Bluephoneは,Bluetoothの無線通信機能を備えたGSM携帯電話端末を使って,家の外ではGSM携帯電話網を使って携帯電話として通話,家の中ではBluetoothのアクセス・ポイントを使って固定電話の無線端末として利用できるサービス。つまり,家庭内では携帯電話より割安な固定電話の料金が適用される仕組みだ。さらに,家の中と外で通信手段が変わったときも,通話は途切れずハンドオーバーを実現するという。

 Bluephoneは初の本格的なFMCサービスとも呼ばれる。一つの端末(One Device),一つの電話番号(One Number),一つの請求書(One Bill)を実現する最初のサービスだからだ。ユーザーにとってみれば,一つの端末を使うことで,家の外と中で電話機を使い分ける必要がなくなる。固定と携帯で電話帳を共用できるメリットもある。世界中の通信事業者がBluephoneの成否に注目しているのも,このような理由からだ。

 FMCの中でも,Bluephoneのように固定と携帯で利用する端末を一つに融合したサービスは,特に「OnePhoneサービス」と呼ばれ,多くの通信事業者が実現に向けて動き出している。

 ちなみに韓国KTも2004年7月に,「DU:(ドュー)」というOnePhoneサービスを試験的に始めている。家庭内では端末のBluetooth機能を使い,固定電話網経由で通話できる点はBluephoneとは同じだが,家への出入り時に手動で切り替える必要がある。Bluephoneの方が,ずっと使い勝手がよい。

OnePhone成功の鍵はデータ通信での料金メリット

 しかし,ユーザーの視点からOnePhoneサービスが実現したときの様子を想像してみると,実は,BluephoneのようなOnePhoneサービスでも,機能的には携帯電話を家の中でも外でも使うケースと大差ないことが分かる。固定電話の代わりに携帯電話ですべてをまかなうケースでも,一つの端末,一つの番号,一つの請求書といったOnePhoneサービスの特徴をすべて持つからだ。ユーザーには,バックグラウンドの回線が固定電話か携帯電話かは直接は見えてこない。携帯電話だけでも,文字通りOnePhoneサービスとなり得る。ユーザーの利用シーンを考えると,OnePhoneサービスはなんら目新しい部分はないのだ。

 だとすると,OnePhoneサービスが成功するか否かは,割高な携帯電話の通話料に対して,固定回線を経由した際のOnePhoneサービスの料金メリットをどれだけ出せるのかにつきるのではないか。筆者は中でも,データ通信をOnePhoneサービスの中にどのように盛り込むかが一つの鍵を握ると考える。安価な固定回線を経由するメリットは,音声ではなく大容量のデータ通信に使ってこそ実感できるからだ。それくらいのメリットを打ち出さないと,ユーザーがあえてOnePhoneサービスに乗り換える動機付けにはならないだろう。

ネットワークの融合もFMCの一つの形

 ここまではFMCの中でも特にOnePhoneに形を絞って考えてみたが,FMCサービスの形態はOnePhoneに限らない。サービスを提供するネットワーク側で,固定電話と携帯電話を融合する方向を検討している通信事業者も多い。ネットワークを融合することで,固定と携帯といったアクセス手段を問わず,共通のサービスを提供できるようになるからだ。これも一つのFMCサービスと言える。

 この方向性は,通信事業者の次世代ネットワーク構想とも密接にかかわる。多くの通信事業者が現在,すべてIPベースの次世代ネットワークへの移行を検討し始めている(関連記事1関連記事2関連記事)。10年,20年後にはこの中から,ネットワークの融合を実現する事業者も多く現れるだろう。だとすると,FMCサービスの提供は多くの通信事業者にとって非常に容易になる。

 しかしこの場合も,ユーザーに見えるのはあくまでサービスとしての形。ユーザーに受け入れるための魅力的なサービスの形を見出す努力は,ネットワークの融合とは別に必要となる。

 このようなFMCサービスを巡った事業者の知恵の出し合いは,この先増えてくるだろう。こうした中から,新しい通信サービスの主流が見えてくるかもしれない。

(堀越 功=日経コミュニケーション)