図1●相互通話体験コーナーのネットワーク構成 クリックして拡大表示
写真1●開場8分で早くもにぎわう相互通話体験コーナー

 筆者は2月5日~7日,幕張メッセで開かれたIT関連の展示会NET&COM2003で「IP電話 ISP間の相互通話体験コーナー」を企画・運営した。そこではインターネット接続事業者(ISP)5社の協力により,IP電話のデモンストレーションを行った。参加したのは,NEC(BIGLOBE),NTTコミュニケーションズ(OCN),ソニーコミュニケーションネットワーク(So-net),ニフティ(@nifty),松下電器産業(Panasonic hi-ho)の5社である(カッコ内はサービス名)。コーナーのネットワーク構成を図1に示す。

 この5社はいずれも,NTTコミュニケーションズが運営するIP電話の基盤ネットワークを用いたサービスを提供している。5社は1月末からIP電話の相互接続実験を進めており(関連記事),今回,初のお披露目となった。

 話題のIP電話を体験できるとあって,当コーナーには朝から多くの来場者が訪れた(写真1)。来場者は勤務先や自宅などのほか,コーナー内の他のISPにもIP電話をかけて,その音質を確認していた。

 来場者からは出展社に対して,質問も相次いだ。以下では,来場者からよく尋ねられた質問を出展社からヒアリングし,その回答とともにまとめた。IP電話をよくご存じの方や,すでに使っている人にはとっては,内容自体は興味を持たれないかもしれない。しかし,一般の方々がIP電話に対してどのような関心を持っているのかを確認することができると思う。筆者もその1人だ。出展社の説明員からは聞けない,一言余計な解説も加えてみた。

    ◆索引
基礎知識編 Q1.最近「IP電話」ってよく聞くけど,そもそも何なの?
Q2.パソコンを起動していなくても使えるの?
Q3.今までの電話機のほかに,新しく電話機が必要なの?
Q4.「IP網を使う」ってどういうこと?
Q5.今までの電話と同じように使えるの?
  
準備編 Q6.IP電話を使うにはどんな機器が必要なの?
Q7.接続の方法はどうなるのですか?
Q8.提供会社,サービス開始時期はどうなっているの?
  
応用編 Q9.携帯電話にはかけられないの?
Q10.Bフレッツには対応しないの?
Q11.法人向けサービスとしては提供しないの?

◆そもそもなんなの?――基礎知識編

 まずは,IP電話とは?という,そもそもの疑問から解いていこう。


Q1.最近「IP電話」ってよく聞くけど,そもそも何なの?

 最近では,「IP電話」という用語は,

通常の電話機をADSLや光ファイバなどのブロードバンド回線に接続して利用する電話サービス

を指すことが多くなっています。

 「IP電話にすると,安くなる」というイメージを持っている方が多いと思います。その意味では,マイラインでの電話割引サービスと似ていますね。ただし,IP電話の場合は,今まで使っていた電話機をブロードバンド回線につなぎ替える必要があります。このためにADSLモデムなどをIP電話対応のものに交換します。こうした電話サービスは,ISPがブロードバンド回線サービスの付加サービスとして提供しています。月額固定料金を払えば,同じサービスの利用者同士では無料で通話できるのが,大きな魅力です。

 こうしたお得なIP電話ですが,今のところ,加入電話(NTTの普通の電話)からIP電話に対してかけることはできません。しかし,2003年夏には,IP電話サービスが総務省から050で始まるIP電話専用番号の割り当てを受けて,通常の電話からIP電話にかけられるようになる見込みです。

 ここまで「通常の電話機+ブロードバンド回線による電話サービス」と説明しましたが,実は,IP電話の元々の意味は,もっと幅が広いものです。通常の電話サービスは,NTTなどの電話会社の交換機網を経由して音声をやりとりします。しかし,交換機網を経由しないで専用のIP網(Q4参照)を経由させて,通信コストを下げることが考えられました。フュージョン・コミュニケーションズの0038による電話サービスは,交換機網の間をIP網にして,低価格な電話サービスを実現しています。こうしたサービスをIP電話と呼ぶこともあります。

 これ以外にも,「通常の電話機+ブロードバンド回線」に当てはまらないIP電話が存在します。ブロードバンド回線を用いながら,通常の電話機を用いずに,パソコンにヘッドフォンとマイクを付けて電話機として用いるIP電話があります。

 また,ブロードバンド回線を用いずに,フレッツ・ISDNを使ったIP電話もありますが,通信速度が遅いために,音質がブロードバンド回線を使った場合にかないません。このため050のIP電話専用番号の割り当てを受けるための音質条件をクリアすることができないと考えられます。

 以下では,通常の電話機+ブロードバンド回線を用いた,ISPが提供する個人向けサービスについて説明していきます。


Q2.パソコンを起動していなくても使えるの?

 はい。IP電話を使うために,パソコンの電源を入れっぱなしにしておく必要はありません。ただし,ADSLモデムや電話機を接続するアダプタは電源を入れっぱなしにしておく必要があります。


Q3.今までの電話機のほかに,新しく電話機が必要なの?

 いいえ。今まで使っていた加入電話用の電話機をつなぎ替えて,そのまま使えます。ただし,構内交換機につながっているビジネスフォンなどはIP電話には使えません。


Q4.「IP網を使う」ってどういうこと?

 IP電話の説明には「IP網を使う」というフレーズが良く出てきますね。「インターネットではなく,専用のIP網で」という文脈で語られることが多いと思います。ちょっと長くなりますが,説明しましょう。

 IP電話では音声をデジタル化して,細切れのデータとしてネットワークに送っています。このデータが一定間隔ごとに相手に到達しないと,音が途切れてしまいます。ところが,インターネットは,もともとデータがちゃんと届くことを保証したネットワークではありません。運営主体も様々です。インターネットでは様々な人が様々な内容のデータを流しているので,その影響によっては,IP電話の音声データが一定間隔で届かなかったり,到着する順番が入れ替わったりする可能性があるのです。こうなると音がプツプツ途切れて聞こえてしまいます。

 そこで,こうしたことを避けるために,IP電話サービス提供会社は,インターネットを介さずにIP電話専用のネットワークを構築しています。インターネットと同じ通信手順「IP」を用いているために,“IP網”(=IPネットワーク)と呼ばれています。このIP網はIP電話サービス提供会社がデータの流れ具合を監視しているので,不具合があったら対応できます。

 このIP網は“IP電話基盤ネットワーク”や“VoIPインフラ網”などと呼ばれています。まだ決まった呼び名はないようですが,ここではIP電話基盤ネットワークと呼ぶことにします。今回のデモでは,NTTコミュニケーションズおよびフュージョン・コミュニケーションズがIP電話基盤ネットワークを提供していました。ISP 5社による相互通話はNTTコミュニケーションズのIP電話基盤ネットワークを使ったものです。同じ基盤を使っているので,ISPが異なっても相互に通話するのは比較的容易なのです。IP基盤ネットワークは,このほか,ソフトバンク・グループやKDDI,日本テレコム,東京通信ネットワークが提供しています。


Q5.今までの電話と同じように使えるの?

 IP電話サービスは,基本的には今までの電話と同じように使えるようにデザインされています。しかし,Q4で述べたIP電話基盤ネットワークを使う部分では,機能が限定されています。

 例えば,IP電話基盤ネットワーク経由では,加入電話からの発信を受けたり,110番などの緊急電話をかけることができません。サービスによっては携帯電話やPHSに発信することもできません。そこでこうした通話では,加入電話網を用いることにより,今までの電話と同等のサービスを提供するようにしているのです。どのように加入電話網を併用しているかは,Q7の接続方法でご確認ください。

 このためADSL専用回線のタイプ2では,IP電話サービスは提供されていません。タイプ2では,IP電話基盤ネットワークで足りない部分を加入電話網で補うことができないためです。緊急電話は携帯電話を使うことにして,これらIP電話でサポートしていない番号にはかけられない,と割り切って低価格にしたサービスが登場しても良いのに,と筆者は思うのですが。

 なお,加入電話からIP電話基盤ネットワーク経由での着信は2003年夏以降に可能になる予定です。

◆どうやって使う?――準備編

 IP電話についての基礎が分かったところで,今度は実際に使うに当たって気になる疑問をチェックしよう。


Q6.IP電話を使うにはどんな機器が必要なの?

 まず,電話機が必要です。これは今まで使っていた電話機でOKです。

 続いて,この電話機をネットに接続するための装置がいります。この装置は2タイプあり,ご利用になるIP電話サービス,ブロードバンド回線の種類で決まってきます。2タイプとは,「ADSLルーター型」と「ブロードバンド・ルーター型」です。ADSLルーター型は「ADSLモデム」と呼ばれることが多いのですが,ルーター機能も内蔵しているので,ADSLルーター型と呼ぶことにします。同様に,ブロードバンド・ルーター型は単に「アダプタ」「TA」と呼ばれることが多いのですが,その実体はブロードバンド・ルーターにIP電話機能が付いたものであるため,ここではこのように呼びます。

 いずれも,ルーターに電話機をつなぐというのがポイントなのです。何やら難しく書いてしまいましたが,すでにお使いのADSLモデムやブロードバンド・ルーターをIP電話対応のものに取り替えると考えていただければ結構です。これらの接続機器はたいていの場合,ISPやADSL事業者からレンタルします。

 こうした電話機の接続機器は,ADSL回線や光ファイバなどに接続しています。ADSLや光ファイバといったブロードバンド回線も必須となっています。それに付随したネットワーク機器も必要になります。


Q7.接続の方法はどうなるのですか?

図2●IP電話の接続方法 クリックして拡大表示

 接続の基本形は,電話機をQ6で紹介した接続機器に接続します。既存のADSLルーターやブロードバンド・ルーターをIP電話対応のものに交換して,そこに電話機をつなぐというイメージです。個別に見てみましょう。

 まず,ADSLルーターの場合です(図2(A))。ブロードバンド・ルーター機能を内蔵したADSLモデム=ADSLルーターを用いている場合,そのADSLルーターをIP電話機能付きのものに換えます。スプリッタにつながっていた電話機を,このADSLルーターにつなぎ換えます。

 スプリッタのこれまで電話機がつながっていたモジュラ・ジャックとADSLルーターの間をもう1本の電話線でつなぎます。この電話線は,110番などIP電話サービスがサポートしていない通話先にNTTの加入電話網経由で発信するとき,およびNTTの加入電話網から着信したときに用います。下側の電話線はインターネット接続用で,IP網を経由して通話するときには,こちら側の電話線が使われます。スプリッタ機能を内蔵したADSLルーターもあります。

 続いて,ルーター機能を持たないADSLモデムや,光ファイバで接続している場合です(図2(B))。この場合にはブロードバンド・ルーターをお使いのはずです。そのブロードバンド・ルーターをIP電話機能付きのものに交換します。ここに端末として電話機とパソコン,回線としてADSLモデムもしくは光終端装置からのLAN,NTTにつながっている電話線をつなぎ込みます。この電話線はADSLルーターの場合と同様に使われます。


Q8.提供会社,サービス開始時期はどうなっているの?

 各社のIP電話サービスの概要を表1にまとめました。

表1●個人向けの主なIP電話サービスの概要 料金また商用サービス開始時期が明らかになっているものを取り上げた。
ISP名 インターネット接続サービス名 IP電話サービス名 IP電話基盤ネットワーク提供会社 試験サービス提供期間 商用サービス開始時期
有線ブロードネットワークス BROAD-GATE 01 GATE CALL メディア なし 2002年3月6日
ソフトバンク・グループ Yahoo! BB BBフォン ソフトバンク・グループ 2001年12月末~2002年4月24日 2002年4月25日
九州通信ネットワーク BBIQ BBIQフォン 九州通信ネットワーク なし 2002年12月21日
NEC BIGLOBE FUSION IP-Phone for BIGLOBE フュージョン・コミュニケーションズ 2002年12月9日~2月28日 2003年3月1日
NTTコミュニケーションズIP-Phone for BIGLOBE NTTコミュニケーションズ 2003年1月23日~2月28日 2003年3月1日
NTTコミュニケーションズ OCN OCN .Phone NTTコミュニケーションズ 2002年12月20日~2003年2月28日 2003年3月1日
ソニーコミュニケーションネットワーク So-net So-netフォン NTTコミュニケーションズ 2002年12月24日~2003年2月28日 2003年3月1日
ニフティ @nifty @niftyフォン NTTコミュニケーションズ 2002年12月20日~2003年2月28日 2003年3月1日
群馬インターネット 群馬インターネット FUSION IP-Phone for 群馬ネット フュージョン・コミュニケーションズ 2003年2月1日~2003年2月28日 2003年3月1日
松下電器産業 Panasonic hi-ho hi-hoでんわ-C NTTコミュニケーションズ 2003年1月16日~2003年3月16日 2003年3月17日
KDDI DION KDDI-IP電話サービス(試験サービス) KDDI 2002年12月10日~2003年3月31日 2003年4月
東京通信ネットワーク 東京電話インターネット 東京電話インターネットIP電話サービス(仮称) 東京通信ネットワーク 2003年3月3日~2003年4月30日 2003年4月~5月

 これらのISPのほかにも,IP電話を予定しているISPは数多くあります。


◆気になる人は気になる――応用編

 そのほかにも素朴な質問が来場者から寄せられた。比較的多かった3つの疑問に回答しよう。


Q9.携帯電話にはかけられないの?

 携帯電話/PHSに対応しているIP電話サービスは,今のところYahoo! BBのBBフォン程度で,ほかのほとんどのIP電話サービスでは対応時期未定としています。IP電話サービスで「未対応」といっても,通常の電話をかけるときと同じ,加入電話網経由で携帯電話/PHSに電話をすることができます。ただし,無料通話や3分8円といった低価格料金ではなく,通常の電話代がかかります。

 携帯電話/PHSへの発信は,IP電話基盤ネットワークを運営するIP電話サービス提供会社が携帯電話会社,PHS会社と交渉して,接続料金を決めてくれないと始まりません。しかし,IP電話サービス提供会社は,まずは商用サービスの開始,ISP間の相互接続を優先して作業を進めているようです。3月に集中している商用サービスの開始後に,開始時期や料金が明らかになることでしょう。


Q10.Bフレッツには対応しないの?

 Bフレッツなどの光ファイバでブロードバンド接続している人も増えてきました。光ファイバ接続(FTTH:fiber to the home)サービスでの対応を明らかにしているISPはまだ限られています。FTTH専業の有線ブロードネットワーク(関連記事),ケイ・オプティコム(関連記事)はIP電話サービスを提供すると発表しています。FTTH専業ではありませんが,東京通信ネットワークは自社の光ファイバ接続サービスおよびBフレッツへの対応を発表しています(関連記事)。

 大手ISPとしては,つい先日2月13日にニフティがBフレッツに対応することを発表しました(関連記事)。NTT東日本および西日本が提供する接続機器を用いるとのことですが,両社から具体的な発表はまだありません(関連記事)。両社がBフレッツでも使えるIP電話対応機器を具体的に発表すると,これを用いたIP電話サービスを提供するISPが急増すると考えられます。


Q11.法人向けサービスとしては提供しないの?

 「IP電話 ISP間の相互通話体験コーナー」でデモしたIP電話は基本的に家庭向けです。これとは別に,NTTコミュニケーションズ(関連記事)やKDDI(関連記事),日本テレコム(関連記事)などは法人向けのIP電話サービスを提供しています,

 大企業ではなく,SOHOなどで少人数だが同時に電話を使うこともあるというケースもあるでしょう。ソフトバンクBBはワイヤレス子機を4台まで接続できるIP電話機(兼ADSLモデム兼無線LANルーター)を発表しました(関連記事)。今後,こうした機器が他社からも提供されるようになると,小規模なオフィスでもIP電話の利用が進むことでしょう。


 以上,NET&COM会場で多かった質問をまとめた。これ以外のIP電話についての解説は,筆者の過去の記事(その1その2)をお読みいただければと思う。

(和田 英一=IT Pro副編集長)