下半期からユーザー数が急激に伸びた2002年の個人向けIP電話市場。ソフトバンク・グループのIP電話サービス「BBフォン」の契約者数は2002年12月末には130万契約に迫り,他社も急速にサービス提供に向けて準備を進めている(関連記事)。2002年は“IP電話元年”だったといえよう。

 既存の電話ビジネスを揺るがすであろうIP電話の2003年を,筆者からの提案を交えながら,前編,後編2回に分けて展望してみる(後編は来週公開の予定)。

100万人突破で“IP電話元年”となった2002年

 まず,“IP電話元年”となった2002年を簡単に総括しておこう。BBフォンは2002年4月25日から商用サービスを開始した。それから7カ月で契約者100万人を実現した。特に年後半からは,インターネット接続サービス「Yahoo! BB」とBBフォンをセット販売することによって,急激にユーザー数を増やしている。2002年12月末では129万4000契約に達した。

 2001年からIP電話をウォッチしていた筆者も予想しえなかった,急速な伸びである。ほぼ1年前の2002年2月には弊社主催の展示会「NET&COM 2002」でインターネット電話体験コーナーを設けたのだが,2002年が“IP電話元年”になるとまでは正直な話,思っていなかった(関連記事)。


注)2002年前半までは,筆者は「インターネット電話」と呼んでいたのだが,他のメディアで「IP電話」という呼称が一般的になったので,筆者もIP電話と呼ぶように転向した。

 インターネット(IP)電話体験コーナーを2002年2月に実現していたように,BBフォン以前に常時接続回線を使ったIP電話がなかったわけではない。しかし,それ以前にここまで成長するIP電話はなかった(関連記事)。

 ソフトバンク・グループ以外のISPは2002年10月から,BBフォンと同様の,通常の電話機を用いたIP電話サービスの提供に向けて,急速に動き始めた。IP電話のシステムを提供する会社を中心にグループ化が進むという,新しい動きが現れた。試験サービス開始やグループ提携のニュースが毎週のように発表になったのである(本記事末の関連記事を参照)。

 2002年12月には,NEC,NTTコミュニケーションズ,KDDI,ソニーコミュニケーションネットワーク,ニフティが試験サービスを開始した。BBフォンに遅れること12カ月である。

 一方,総務省は2002年5月13日にIP電話専用の番号として「050」で始まる11ケタの電話番号を用いることを明らかにした。総務省は9月27日からIP電話サービス提供会社からの番号取得申請の受付を始め,11月25日から割り当てを始めた(関連記事)。

2003年春,有料サービスが始まるが,料金と相互接続性が課題に

 そして,いよいよ2003年。今年は2つのマイル・ストーンがある。最初は3月から4月,多くのISPがIP電話サービスを本格的に提供し始める。試験サービス開始を公にしている各社は,試験サービスは2003年2月末まで,あるいは3月末までとしているところがほとんど。それ以降は本サービスとなる。もう1つのマイル・ストーンは夏。これまで実現していなかった加入電話からIP電話への発信ができるようになる。

 前編となるこの記事では,商用サービスが始まるこの春の2つの課題を取り上げる。具体的には,料金設定とサービス間の相互接続である。以下,この2点について,筆者の視点と提案をまとめた。なお,料金に関する試算や相互接続に関する各社の動向などの詳細については,別掲記事として本記事の“補足説明編”を用意したので,ご興味のある方はぜひ,こちらも合わせてご覧いただきたい。

 まず,料金についてである。KDDIの「KDDI-IP電話サービス」,BIGLOBEの「FUSION IP-Phone for BIGLOBE」は料金を明らかにしているが,他のサービスはまだこれから。その料金設定に各社は頭を悩ませているはずだ。決めなくてはならない料金は4項目――初期費用,月額基本料,機器レンタル料,通話料である。いずれの項目も,先行するBBフォンをにらんで定めざるを得ない。

 この4項目のうち初期費用と通話料については,あまり悩める余地はない(補足説明編を参照)。問題となるのはユーザーにとってはIP電話を使っても,使わなくても契約した以上は毎月徴収される固定費(月額基本料+機器レンタル料)である。

 補足説明編に記したように,筆者の試算では,KDDI-IP電話サービスやFUSION IP-Phone for BIGLOBEなど,BBフォン以外で料金が明らかになっているサービスにおいては,残念ながらまだ多くのユーザーにとって敷居が高い(既存の電話と比べて価格面でメリットを感じない)。KDDI-IP電話サービスでは580円または680円,FUSION IP-Phone for BIGLOBEでは580円が毎月固定費としてかかるのだ。

 この固定費が,半額の月額300円程度にならないか。こうなれば,多くの電話利用者がIP電話に魅力を感じ,長期的にはユーザー数が増えることで事業者側のメリットにもつながる,と筆者は考えている。

同じISPのユーザー間で無料通話できないことも

 もう1つの課題がサービス間の相互接続である。ユーザーにとって,IP電話の最大のメリットは何といっても同一サービス内では通話料が無料,という点だろう。さらに,相互接続するIP電話は無料という,暗黙の了解ができている。これはすなわち無料通話範囲の拡大となり,ユーザーにとっては一番,IP電話のメリットを感じられるところである。

 ここには2つの問題がある。1つはグループ化が進む一方で,グループ間の相互接続が進まない点。もう1つは1番目の問題に起因して,同じISPのユーザー間でも利用するIP電話サービスが異なると通話ができない,あるいは無料通話ができない,という点である。

 こうした問題は,IP電話の複雑な事業構造に起因している。特定のADSL回線でしか提供しないサービスがあったり,あるいは逆に複数のADSL回線サービスにまたいで提供するサービスもある。さらには,同じ会社のADSL回線であっても速度(8M/12Mbps)によってIP電話サービスが異なったりと,複雑極まりない。このため,同じインターネット接続サービスのユーザーであっても,相互に通話ができなかったり,通話料が発生するケースがある(補足説明編)。

 もちろん,こうした事態は過渡期のなせる落とし穴である。というか,こうした落とし穴がある間は,過渡期と呼ばざるを得ない。早急にこうした,ねじれを解消して,少なくとも同じISPのユーザー同士であれば,無料で通話できるようにしていただきたいものである。

ユーザーの囲い込みだけに走らず,市場全体の拡大を目指してほしい

 サービスをエンドユーザーに提供するISPも,当然,そのような考えを持ってはいる。このままではBBフォン以外のIP電話はブレイクしようにない。鍵を握っているのは,IP電話サービス提供会社である。

 これまで通常の電話サービスを提供してきた多くのIP電話サービス提供会社にとっては,減少しつつある通常の電話に代わる収入源が欲しいというのは理解できる。今までの電話ビジネスのノウハウを生かしつつIP電話の基盤ネットワークをISPに提供して,そこから収入を得るという新しいビジネスに乗り出そうというわけだ。

 事業が成功するためには,少しでも多くのユーザーに契約してもらう必要がある。そのために,多数のISPと契約してカスタマ・ベースを築きたい。カスタマ・ベースが多い方が,接続交渉時に有利となる。

 「つながせてください」と他社にお願いするのか,他社から「つながせてください」と頼まれるのかでは,価格決定権はどちらにあるのか明白だろう。価格決定権の重要性は,普通の電話でNTTと料金交渉を繰り広げてきた彼らにとって,痛いほど分かっている。「もう値下げをお願いする側に立つのはいやだ・・・」。こんなトラウマにも似た思いが,IP電話サービス提供会社をISP囲い込みに突き動かしている。ここで優位に立っておかないと,のちのち何年にもわたって,主導権を握れない可能性があるのである。

 と,まあこんな具合にIP電話サービス提供会社側の論理は分からなくもない。しかし,囲い込みにばかり走って,ユーザーの利便性を重視しないと,ユーザーからはそっぽを向かれるばかりである。2003年は“IP電話二年”とはならずに,“BBフォン二年”で終わってしまう可能性だってあるのだ。

 少なくとも同じISPの中では無料通話を早急に実現できるように提言したい。沈滞する日本経済において,IP電話はにぎわいを見せる分野の1つであることは間違いない。新たな市場/ビジネスを創造することは今の日本に一番求められていることであろう。それがユーザーの囲い込みという内向きで終わっては,もったいない。IP電話サービス提供会社には,ぜひ外向きのビジネス展開をしていただきたいものである。

 このように他の事業者に苦言を呈するのは,何もYahoo! BBやBBフォンを無条件に礼賛するためではない。拮抗しうるサービスをぜひ提供していただき,ソフトバンク・グループの独走にストップをかけ,市場全体を活性化させていただきたいと強く願っているがゆえであることをご理解いただきたい。

 さて,来週公開予定の「IP電話2003年の展望(後編)」では,夏に予定されている加入電話からIP電話への着信ができるようになる“Xデイ”に向けての課題をまとめる。着信ができるようになって,果たしてIP電話は“普通の電話サービス”になれるのだろうか?

 なお,IP電話についてのアンケートを本日から開始した。一般ユーザーがブロードバンド回線サービスを選択するに当たってIP電話を重視しているのかを探るのが狙いである。お時間があれば,こちらのページから,ぜひアンケートにご協力いただきたい。

(和田 英一=IT Pro副編集長)