デザイン思考の盛り上がり

 デザイン思考の話を講演ですると、いつも皆さんに熱心に聴いていただける。そのブームとも言うべき雰囲気を、昨今は特に肌で感じる。デザイン思考は、私のようなデザインがバックグラウンドの人間ですら、数年前まで耳にしたことがなかった。ましてや、そうでない人々にとってはデザイン思考と聞いただけで、自分の話ではないと耳を閉じてしまうのが一般的だろう。私自身も自分のテリトリーであって、一般の人々にはほぼ無関係のことと誤解していた。

経済産業省も進めるデザイン思考

 ところが昨年のちょうど今頃、いつもやっているUX活動の線上で、経済産業省からデザイン思考の委員会にお声掛けをいただいた。もちろん経済振興が主業務の一部となる経済産業省にとって、デザインに関わる興味をお持ちの方々がおられても、それは不思議ではない。デザイン思考を手法のひとつとして確立し、日本企業全体へ波及させ、日本国経済の成長の原動力とするといった孤高なリーダーシップに大いに共感し、本委員会に参加した。委員会では省庁の縦割りの課題や知的所有権での障壁、さらにグローバルでの壁や法規制にまで話は及んだ。ただ、日本には私たちが古来から持つ固有の良さがあり、デザイン思考自身も既に日本文化の中には含有している事実すら発見できた。大変有意義な委員会に日立代表として出席する機会を得たことを、改めて関係者に感謝したい。

IDEOがけん引するデザイン思考

 このデザイン思考は私が知る限りでは、米国のデザイン会社IDEO社がけん引していると思っている。数年前に他界した創立者のビルモグリッジ氏とは、1980年代に私が米国駐在している際に、IDSA(米国インダストリアルデザイナーズ協会)を通じて知り合い、当時彼が社長をしていたIDEO社の前進であるサンフランシスコのID-Two社に訪れたこともある。その会社はアップル社の画面デザイン全般を引き受けていたと記憶しており、デザイン業界でも最先端企業だった。したがって、単にデザインに特化した事業領域から、現在のデザイン手法をとおしたデザイン思考を売りに、米国でも主要なコンサルティングファームに変貌を遂げた、その先端を志向する企業成長のプロセスには納得ができる。

誰もが取り組めるデザイン思考でイノベーションを起こす

 このデザインの非デザイン領域への解放は、前回のコラムでリフレームについて述べているが、まさにその典型だ。デザインは好きだがデザインしたり考えたりはできないと決めつけている多くの人々に、その考え方を転換させた。クリエイティブを生み出し、事業にイノベーションを起こすのは、デザインそのものもあるかもしれないが、むしろその発想やデザインを生み出す手法にこそ、トリガーがあるということ。そして、それはデザイナーの特権や特質ではなく、誰もが取り組めるということが広く波及し、デザインそのものが多くの人々にとってより身近な存在になった。ここに至るプロセスでのIDEO社の果たした役割は大きく、デザイナーが常に求め続ける「見やすく」「分かりやすく」「使いやすく」そして「伝わりやすい」といった多くの要素が、さまざまな分野で多用され、デザイン思考は、企業の事業成長を支える手法であり、イノベーションを起こす足がかりになるという考え方が、広く定着した。

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