第11回は、前後編でUXやデザイン思考の未来予測を試みている。

 前編で、私自身が考えるUXとは「提案力・商品力・品質といった切り口から、お客さまとの接点すべてで豊かな経験を提供する」ことだと述べた。例えば朝の「おはよう」や感謝の気持ちを込めた「ありがとう」といったコミュニケーションも含め、「お客さまのタッチポイントのすべて」がUXである。すなわちUXは、CS(顧客満足)をも包含した総体的な概念や理念だと位置付けている。この考えは当社内では浸透しているが、UX識者間ではけげんな顔をされることが多い。しかしUXの世界的すう勢は、このホリスティック・エクスペリエンス(全体的な経験)に移行している。このことを前提に、後半をお届けしたい。

誰もがUXリサーチャー=イテレーション(反復)の精度と頻度が上がる

 UXがホリスティック・エクスペリエンスに移行する流れの中で、今後は誰もがUXリサーチャーになれる時代が到来するだろう。以前、検索大手G社のUXリサーチャーにお会いしたが、彼はもともと、北欧で子供たちに日光浴をさせる「日光浴インストラクター」だったという。UXリサーチャーは特別な職種に思われがちだが、彼のような直接的に経験のない人材が、G社でUXリサーチャーとして働いている。そのとき、UXの奥深さに感銘を受けた。誰もがUXリサーチャーとして、サービス精度を向上させる立役者になれる、そんな時代の到来を最近はとみに感じる。

 UXの取り組みは、失敗を恐れず、数多くの経験を繰り返し積み上げることで、サービス精度の向上が実現できる。かの発明家トーマス=エジソンは、一万とおりの試行の後「失敗ではない、うまくいかない方法を一万とおり発見しただけだ」という名言を残したが、UX観点では「一万回の経験をした」と言える。経験を繰り返し積み上げることをイテレーション(反復)というが、そのサイクルの頻度を上げれば、おのずと経験の価値は高度化されるだろう。それに加えて、G社のように未知数な異分野の人材をUXに巻き込むことで、さらに反復サイクルの高速化が可能ではないかと思う。単眼かつ直線的な思考ではなく、複合かつ横断的な思考が、今後のUXイテレーションサイクルの主流となるだろう。

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