エスノグラフィって何だ

 最近でこそ「エスノグラフィ」というワードが、広く巷で知られるようになり、その重要性が盛んに議論されるようになったが、「エスノグラフィ」は「行動観察」や「観察工学」などと訳されることが多く、そもそもは文化人類学者や人間行動論など人間工学分野、あるいは認知心理学などの特定の学者が扱う領域だった。

 私自身、学生時代は人間工学を一時専攻したこともあり、人間行動論や人間工学概論は、それなりに深く学習した経験がある。文化人類学の観点からも、人そのものやその行動を見つめ、探ることは大変興味深い。ただ、エスノグラフィという言葉は耳に残っていないので、少し探ってみると、実は大航海時代に起源があることが分かった。この時代の欧州の列強は、盛んに未開発国の植民地化を進め、その中で例えばオーストラリアを統治しようとした大英帝国が、アボリジニなどの原住民の暮らしを深く観察し、掘り下げることにより、その統治精度を向上させたなどの史実も残っている。最近ではアマゾンの裸族の生活や行動から人間の本性を探り、現代人の深層に迫るなどが、エスノグラフィの原点となっている。

「みる」という行為がエスノグラフィ

 翻って、最近エスノグラフィが着目されているのは、もっぱらIT分野での操作性改善が目的の中心のようだ。もちろんエレベーターやエスカレーター、はたまた車両保守や建設現場の重機保守など、日立ではそれらの改善のためにエスノグラフィ手法が幅広く活用されている。ITについては、その手法を用いた改善が商品力向上に直結することはいうまでもないが、以前提案書についてのコラムでも述べたように、「みる」という行為自体は、何も目的を限定する必要はない。

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