連載25回目の最終回は「部分最適の弊害」と、その根本的な解決策を書こうと思います。

 私は、BtoBにおいてはマーケティングが機能するもしないも「何を誰にどうやって売るのか」を網羅した「基本設計」にかかっていると考えています。

 基本設計とは、ターゲット市場とターゲット企業を定義し、その中の部署や担当ミッションを決めた上で、その人たちのリード情報を「どこで、どのくらいのコストで、どのくらいの質と量を誰がどうやって収集するか」「そのデータマネジメントは誰がどういう手順でどう行うのか」「リードとのコミュニケーションはどのチャネルをどう組み合わせて、誰がどう行うのか」「その結果を誰がどう分析するのか」「絞り込まれた有望リードに誰がどうアプローチし、それを誰が誰にどうフィードバックするのか」という一連のマーケティング活動の設計です。

 BtoB企業が行うマーケティングの中でも私が専門にしている「デマンドジェネレーション:案件創出」は、第三のマーケティングと呼ばれています。この活動が「リサーチ」や「ブランディング」などの従来のマーケティング活動と大きく異なるポイントは、直接的に売り上げに貢献することを求められ、ROMI(Return On Marketing Investment)という指標で定量的に効果を測定されることです。

 基本設計が存在しない、またはその出来が良くない企業のマーケティング活動は、内部的には予算ばかりを使い、さらに人的社内リソースも使いながらさっぱり売り上げに貢献しない「無駄」な活動と識別され、やがて予算を縮小されることになります。外に対してはさらに有害で、ノイズをまき散らし、会社のブランド価値を引き下げ、時には誰かを怒らせてしまいます。

 テクノロジーの進化がこの問題を解決する訳ではありません。現状はむしろ悪化させているように見えます。

 BtoCで多く使われるアドテクノロジーは目覚しい進化を遂げてはいますが、今日現在ユーザーとしてそれを実感するのは、とっくに他のサイトで購入した製品のリターゲティング広告に追い回されるときや、やたら競合企業のバナーが出てくるときくらいです。

 BtoBで使うMA(マーケティングオートメーション)も同じで、基本設計ができていない企業がこれを導入すれば、シナリオ設計やステップメールなどの機能をオモチャ代わりに使って、世の中に不要のメールを大量に繰り返し配信し、挙句の果ては自社のドメインがスパムと識別され通常のメールすら届かなくなります。メールを配信するだけならMAより優れたツールはいくらでもあります。

 ちょうど2年前の2014年3月に書いた連載の第3回目に「多くの企業が抜け出せない、部分最適なマーケティング活動」と題して、マーケティングが売り上げに貢献できない主な理由として「マーケティングが部分最適で、全体最適に設計されていない」ことを挙げました。

 2014年の秋から、米国から遅れること15年にしてようやく日本でもMAが手に入るようになり、それをプラットフォームにした全体最適のマーケティングを再構築できる環境が整いました。これで世界との差を一気に縮めることができる、と考えましたが、残念ながら基本設計をおざなりにした部分最適は改善されることなく、ますます売り上げ貢献から遠くなった感があります。

 こうした新しいテクノロジーだけではありません。展示会は相変わらず、ブランディングのために派手な演出をするか、単年度で刈り取れる具体化した商談を求めるかに2極化しています。「長期的な関係を始めるためのセグメントされたリード情報を収集する場」として位置づけられ、適切な評価指標を持っている企業はわずかしかありません。こうなると展示会に出展することは企業にとっては費用的にも、売り上げ貢献の意味からも重要な施策ではなくなってしまい、その結果、予算の削減や全面カットという動きが起きています。

 多くのメディアが手掛けている資料ダウンロードによるリード獲得サービスも、企業の中にしっかりとしたマーケティングの基本設計が存在し、メディアからの資料ダウンロード者リストはマーケティングラインのどこに位置づけ、どう扱うかを決めていなければ、しつこく電話を繰り返しても結局案件化しません。それがこうしたメディアを利用する企業のリピート率の低さという結果になって現れています。

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