前回の最後を「次回はマーケティング組織の創り方を説明します」と結びましたので、私の経験からそれを書いてみます。

「製品や技術、サービスは良いが、売り方が下手」。この日本企業の特徴は、CMOを持たない企業に共通するものです。「市場」と向き合う責任を明確に負っている人(CMO)が存在しないので、自社の製品や技術を市場の潜在ニーズと化学反応させることができないのです。

 今、日本のBtoB企業に必要なマーケティングは「リサーチ」でも「ブランディング」でもなく、「案件を創り、営業部門に供給する【デマンドセンター】と呼ばれる仕組み」です。その事に企業は気が付き始めました。特に国内や海外市場で外資系企業と戦っている現場は、仕組みを持たずに戦うのは、爆撃機に竹やりで戦いを挑むようなものだと実感しています。それを受けてデマンドセンターに該当するマーケティング部門やその責任者であるCMOを置く企業が出てきました。そして、弊社にもその組織の創り方、人選のポイント、マーケティング部門は組織のどこに紐付けるか、といった問い合わせを多くいただくようになりました。

<デマンドセンターを創る基本的な手順>

<1>自社のマーケティングを定義する
        ↓
<2>STPなどのフレームワークでフォーカスすべき市場を定義する
        ↓
<3>定義されたマーケティングの業務を具体的に拾い上げて時系列に並べる
        ↓
<4>いつ、どこでどのようなツールと、どのようなスキルを持った人材がどのくらい必要かを拾い出す
        ↓
<5>それを社の内外からどう調達するかを計画する
        ↓
<6>以上を全体設計に落とし込み、それを実現する予算と人材を確保して実行する

 これらについて、一つひとつ見ていきましょう。

<1>自社のマーケティングを定義する
 まず企業が必ずやらなければならないことは「マーケティング」の定義です。実は「マーケティング」という言葉はこれほど普及しているにも関わらず、一定の定義がありません。コトラーの定義とドラッカーの定義は違いますし、マーケティングの学会や協会によっても定義が異なっています。これは日本に限ったことではありません。私が所属している米国ダイレクトマーケティング協会(DMA)の定義と米国マーケティング協会の「マーケティングの定義」は違うのです。ですからマーケティングに取り組む企業は先ず自社内でマーケティングを定義しなければなりません。同じ言葉を異なる定義で使っている間は成果を出すことはまず無いからです。

 マーケティングを定義して初めてマーケティング部門の業務が定義でき、それを統括するCMOに求めるスキルセットも定義できるのです。リサーチもマーケティングです。ブランディングもマーケティングです。ですから宣伝広告もPRも研究開発もマーケティングなのです。もっと広義で見ればセールスさえマーケティングという人もいます。

 私は、今の日本企業が取り組まなければいけないマーケティングは、「デマンドジェネレーション」と呼ばれる「営業案件の創出の仕組み」であり、それを担当する組織「デマンドセンター」の構築だと考えています。

<2>STPなどのフレームワークでフォーカスすべき市場を定義する
 BtoBマーケティングで自社の製品やサービスの市場を定義する場合、

【1】STPによる市場の定義
【2】ABM(Account Based Marketing)による企業(アカウント)の定義
【3】ペルソナによる個人の定義

 が必要になります。ただ、これらの定義は基本的には商材に対してですから、多くの製品やサービスラインアップを持つ日本企業にとっては商材をどのメッシュでマーケティングを行うかが問題になります。これは事業部や製品・サービスの競合状態、直販か代理店販売か、という販売体制など非常に多くの要素が絡み合うパズルのような工程です。

<3>定義されたマーケティングの業務を具体的に拾い上げて時系列に並べる
 デマンドセンターの業務は時系列に並べることが出来ます。

【1】リードジェネレーション:
 見込み客リストを収集するプロセスで、オンラインとオフラインでそれぞれチャネルや手法が存在します。
【2】データマネジメント:
 さまざまなフォーマットで収集された見込み客データを「名寄せ」「企業と個人の紐付け」「営業対象外の排除」「企業属性情報の付与」「個人情報保護法等の法令要件への対応」を行い、合法的にマーケティングを行えるリードデータに整備します。
【3】リードナーチャリング:
 見込み客とのコミュニケーションによって啓蒙するプロセスで、この主役はコンテンツです。Webを中心に、メールマガジン、動画、SNS、そしてDMや情報誌などの紙媒体を組み合わせてコミュニケーションを展開しながら、良質なコンテンツでリードとの距離を縮めていきます。
【4】リードクォリフィケーション:
 所属する企業の属性情報と、所属する個人のオンラインとオフラインの行動情報(Webの閲覧情報など)を分析してスコアリング(重み付け)し、最も案件化の可能性が高い見込み客を絞り込んでいくプロセスです。BtoBマーケティングで使うMAにはスコアリングの機能が必須なのは、このプロセスのためです。
【5】インサイドセールス:
 絞り込まれた有望見込み客に電話をかけ、ニーズを確認して営業部門に渡すプロセス。ここで営業に渡されるリストを「MQL」(Marketing Qualified Lead)と呼びます。

「<3>定義されたマーケティングの業務を具体的に拾い上げて時系列に並べる」は、この5つのプロセスに対してそれぞれ「どうやって(How)」を書き込んでいく作業です。ロボット(FA)メーカーが医薬品製造業をターゲット市場に定義した場合、医薬品製造業のラインマネージャーや生産技術部のリストを収集しなければなりません。その具体的な計画と数値目標を考察します。

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