With energy and confidence to build a pipeline of qualified opportunities for our Account Executives.(営業のために有望見込み客でパイプラインを満たす自信とエネルギーを持つ人)

 これはある米国企業の「ADR」という職種を募集している要項の「Responsibilities(職責)」の一文です。

 ADR(Account Development Representative)という職種は日本ではいまだ耳慣れませんが、マーケティングの先進国である米国や英国では、この職種がマーケティングとセールスのブリッジとしての役割を果たし、まさに成功のキーパーソンとして位置づけられています。ですからこんな勇ましい表現で募集されているわけですが、ほかにも以下のようなものがあり、読んで応募してくる人はいったいどんな自信家なのだろう、と考えてしまいます。

 Enthusiastic and hard working.(熱狂的できつい仕事)

 Strong persuasive ability for Sales team.(営業チームに対する強い説得力)

 Develop sales strategies to increase business revenue.(販売戦略を立案し、売上増加に貢献する)

 Collaborate with Sales and Marketing to develop additional leads.(マーケティングと営業の協力でさらなるリードを創造する)

 Generate repeat business with existing customers and Identify potential customers to generate new business opportunities.
(既存顧客からのリピート案件の創出と、潜在顧客からの新規案件の創出)

 このADRというポジションは実は昔からあったわけではありません。

 BtoB企業がマーケティングを整備し、営業部門や販売代理店、特約店にMQL(Marketing Qualified Lead)と呼ばれる営業案件を供給できるようになると、その次に必ず出会う問題は、「そのMQLを営業がフォローしてくれない、フォローしたかどうかをフィードバックしてくれない」というものです。

 マーケティング部門の人間としてはこんなに切ない話はないのです。何しろこのMQLは多くの汗と苦労の結晶であり、しかもたっぷりマーケティング予算をかけて創られたものだからです。

 Webはもちろん、サンフランシスコやオーランド、ラスベガスなどにあるコンベンションセンターで開催される展示会でのリードジェネレーションから始まって、名寄せや競合排除などのデータマネジメント、そのデータに対して最適化したコンテンツでのナーチャリング、その行動解析や後からアドオンした企業の属性情報でスコアリングし、インサイドセールスでニーズまで確認したMQLのリストが、営業や代理店に渡したとたん、どうなっているのかさっぱり見えなくなってしまうという状況になっていたのです。

 梨のツブテではマーケティング活動がセールスに役立っているのかも分からないので、「先月のリストのフォロー状況はどうですか?」などと聞こうものなら、「電話してもいなかった」だの、「受注までまだ時間がかかりそうだ」、「行ってみたら小さい企業なのでがっかりした」、などと言われ、挙句の果ては2カ月以上前に渡したリストに「案件が忙しくて未だフォローできていない」などと言われる始末です。

 米国はこの状況に10年ほど前の2000年代中頃に陥りました。統計好きの米国人はこのMQLの無視率(Ignore Rate)を集計してベンチマークし、重要課題としてカンファレンスで発表していたほどです。2014年からMAの普及が始まった日本でも、早くもこの兆候が顕在化しています。

 そして、さんざん苦労した挙句に、米国のマーケターが「営業に無視されないための方法」つまり「Ignore Rate(無視率)を下げる方法」として採用したのがこのADR(Account Development Representative)というポジションの設置なのです。

 ADRは、新規市場や既存顧客から発生する新規案件のコントロールタワーとして、マーケティングから供給されるMQL(営業案件)を審査し、受け取り、その質を評価し、さらに営業や代理店にキラーパスとしてトスして、その後のフォロー状況を確認する役割りです。多くの場合、マーケティングではなく営業サイドに配置され、新規企業だけでなく、取り引きのある既存顧客からの新規案件にも責任と権限を持っているのが特徴と言えるでしょう。

 私はこのADRを説明するときによくサッカーを例に出します。売り上げを創ることをサッカーゲームに例えた場合、営業パーソンを得点を稼ぐフォワードとするとします。マーケティングはそのすぐ後方にいますから本来は「中盤」なのですが、案件まで遠い展示会やセミナー、データマネジメントなどを主管することを考えればむしろ「ディフェンス」かもしれません。

 このディフェンスから最前線のフォワード(営業)にロングパスを出していたのが米国でそれまで行われていたやり方でした。無視率(Ignore Rate)が高いということはこのロングパスの精度が悪かったのです。この原因は距離が長いからパスがそれてしまう、というだけではありません。最終ラインで守っているマーケティングチームからは、遠い最前線にいるフォワードのコンディションが見えないのです。

 もしある営業パーソンが、大型案件のクロージングに入っている場合に、クロージングまで数カ月か数年もかかるマーケティングからの新規案件(MQL)をもらってもフォローしないことが多いのです。これはフォローしない営業が悪いのではなく、その営業のコンディションを知らずにロングパスをぽんぽん蹴り込むマーケティングに問題があるのです。そこで、よりフォワードの近くにいて各フォワードのコンディションや特性を理解し、それに合わせたキラーパスを出すことが出来る「トップ下」が必要になったのです。これがADRなのです。

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