東日本大震災は日本企業に「確率的には極めて低いはずの、想定外の大災害にどう立ち向かうのか」という難題を突きつけた。何らかのよりどころとなる考え方、言い換えれば、哲学を持たずして解答を導き出すことは困難だろう。

 とはいえ冷静に振り返れば、経営や業務を脅かす要因は自然災害にとどまらない。システム設計やプロジェクト管理、企業不祥事、個人情報漏洩や、新型インフルエンザ流行など、これまでも企業は想定外の事象に立ち向かってきた。ITproでは、そうした様々なテーマについて、危機管理や対処法に関する記事を掲載してきている。

 それらの記事の中から、「想定外の危機に立ち向かう」マネジメントを示唆するものを、災害や事件の種類にあえてこだわらずに選り抜いた。自然災害への対処を冷静に考えるうえで、違う角度からの指摘や提言もヒントになるはずだ。

想定の仕方

 まず想定というプロセスに関しては、「過去の歴史を徹底的に調べ、どんな災害が起こったかを参考にすべき」とする識者や、想定外の事象を考え尽くすべきとする識者の提言がある。

 また、システムに対する要求を漏れなく聞き出す技法は、リスクを洗い出す調査にも応用できるだろう。「シナリオプランニング」という戦略策定手法を用いて未来の不確実性に対処しようと取り組んでいる事例もある。

地震と津波規模の想定はなぜ小さすぎたか

「想定外の事象を考え尽くさないとシステムは強くならない」

「漏れ」なく洗い出す知恵

GE流の変化対応術、極意は「シナリオプランニング」にあり

災害時の現場

 何らかの大災害が発生してしまったときは、パニックに陥らずに、冷静に優先順位を判断して、対処する必要がある。意思決定を下すべきマネジャーが現場に来られない場合も想定し、判断がブレないルールをできるだけ事前に作っておく必要もあるだろう。

 睡眠を十分に取れないなどの事情で、自身や周囲の人々が急性ストレス障害に陥らないかどうか注意を払うことが、メンタルヘルス面では必要となる。災害医療について、4つのフェーズでリスクを考えるべきとする解説も参考になる。

優秀な人が非常時にダメになる理由

人によってブレない重要情報の判断ルールを作る

急性ストレス障害――震災による強いストレスに気を配る

災害医療とリスクマネジメント

有事の広報対応

 福島第一原子力発電所の事故に関する、東京電力や政府の情報発信について、イライラや不信感を募らせた人は少なくないだろう。有事の際には、当事者の意識はどうしても内向きになりがちなものだ。

 顧客や社会に対する説明責任を果たすには、情報管理体制や、情報公開、会見への姿勢などについて、平時から広報担当者と経営陣がよく検討しておく必要がある。

不祥事発生時の広報ノウハウをコンサルが伝授

“有事”に強い危機管理の哲学(前編)

“有事”に強い危機管理の哲学(後編)

お客様相談室が品質保証部門の下にあってもリスク管理は大丈夫?

顧客目線を意識して対策する

 大地震や大津波、都市火災といった災害は、最悪の場合は企業の存亡に関わる。そのようなリスクに備えようとすると、サプライチェーンや情報システムに冗長性を確保するなど、コストもどんどん上昇してしまう。

 こうしたコストを考えるうえで、欠いてはならないのが顧客(取引先)の目線を意識することだ。供給の冗長度についてコストや体制面で協力を求めるケースもあれば、災害後の復旧支援で協定を結ぶケースもあるだろう。

 サプライチェーンや情報システムの全体像をなるべく多くの関係者が共有しておくことも基本的な心構えだ。有事にどこに情報を集約するのかなども取り決めておく必要がある。

「安全」「品質」を決めるのは誰か

BCP策定は取引先や地域と共に

障害時対応をツールだけに頼ってはいけない

訓練の在り方

 最後に、災害対応訓練の在り方についての記事をピックアップした。「リハーサルを通じて対策の問題点を洗い出す際に、第三者がチェック役として参加するのがよい」「想定外のトラブルシナリオをチェック役が設定することで、より実践的なケースを作り出すことができる」といった提言は重要だ。

 毎年同じようなシナリオで避難訓練を実施し、つつがなく終わらせるだけでは、危機管理のPDCA(計画・実行・検証・見直し)は回らない。何らかの想定外の状況をシミュレーションする訓練が不可欠だ。

リハーサルの成果を生かす