写真●「失敗学」で著名な畑村洋太郎氏(工学院大学教授,東京大学名誉教授)
写真●「失敗学」で著名な畑村洋太郎氏(工学院大学教授,東京大学名誉教授)
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 「失敗学」で著名な畑村洋太郎氏(工学院大学教授,東京大学名誉教授)。「失敗」は隠すのではなく,新技術や新たなアイデアの創造に生かすべきであり,致命的な失敗を避けるための仕組みを取り入れていくべきという主張だ。2日目を迎えた開発者向けセミナー「XDev2008」の基調講演に登壇した畑村氏は,中越沖地震における柏崎刈羽原子力発電所や回転ドア,エレベータなどの事故を例に挙げながら,システム開発者が備えておくべき心得えについて熱く語った。

 「設計の段階で想定外の事象をどれだけ考えられるかでシステムの強さは大きく変わる」--。回転ドアで小学生が亡くなった事故では,立ち止まった人がドアに押されてしまう,前に倒れてしまうなど,簡単に思いつく事象は考慮され,そのためにたくさんのセンサーを付けていた。しかしドアと柱の間に人が挟まれる事態は想定していなかった。「そうした事象は,確率は低くても損害額が大きいため,損害額と確率を掛けたリスクは非常に高くなる。システムならユーザーの誤った使い方まで含めてあらゆる事象を考えておかなければならない」と畑村氏は語った。

 柏崎刈羽原発でも,“危ない”と容易に想定できた原子炉自体には十分な安全対策が施されており,地震による被害はなかった。しかし,その周辺の変圧器や消火用の配管に被害が出たため,大きな事故につながった。「こうしたことを避けるために必要なのが逆演算思考。まずいことになる事象から逆方向に演算して設計に反映しなければならない」と畑村氏は訴えた。

 最近ではネットの普及により,従来では考えにくかった“失敗”にまで配慮する必要があるという。畑村氏が例に挙げたのは,2007年7月に起こった伊勢丹新宿店での「エコバック事件」である。人気のエコバッグが売り出され,「オークションで高く売れるというネットの口コミも広がったことから,徹夜組まで6000人もの行列ができてしまった。伊勢丹は悪くないのだが,そうした事態が起こりえるのが現実」と畑村氏は言う。情報システム失敗例として挙げたのが,東京証券取引所のシステム・トラブルだ。「従来ならシステムの最大性能を想定の2倍や10倍といったレベルで見積もれば十分だったかもしれない。現在は100倍から300倍まで考えておかないと,東証のようなトラブルはなくならない」。

 畑村氏は,こうした失敗を生かすための技術開発の手法をまとめた著作「技術の創造と設計」(岩波書店 発行)を2006年にまとめた。「この本などで勉強し,ぜひ強い情報システムを作ってほしい」と畑村氏は最後に語った。