製品の使われ方や世の中の動向は、数式のように一定ではない。既知のトラブルについては、FTA(Fault Tree Analysis:故障のツリー解析)やFMEA(Failure Mode and Effect Analysis:故障モードとその影響の解析)などを駆使すれば再発を防げるだろう。
だが、未知のトラブルも発生しうるという前提に立たなければ大きな事故や事件を引き起こすリスクは高まる。例えば、オフィス向けに販売したシュレッダーが家庭に置かれてしまい、幼児が指を中に入れようとするといった事故は、メーカーにとっては未知のリスクであったに違いない。こうした新たなリスクをいち早く察知し、非常に危ないと判断したら、被害が増えないうちに対策を実行できるかどうかで企業の浮き沈みは決まってしまう。しかも2009年10月には消費者庁が設置されており、ますます消費者は商品の不具合に敏感になってくるだろう。
新たなリスク発生に備えるための組織管理の課題は以下の3つだと考えられる。
- (1)感知レベルの高度化
- 顧客へ危害を与えかねない予兆をいち早く感知できること
- (2)感知したものごとを迅速に社内で伝達する仕組みづくり
- 感知したものごとをいち早く該当部署へ通報できる仕組みをつくること
- (3)大きな被害が無いうちに再発や拡大を食い止めることができる仕組みづくり
- 察知した場合は、即時に回収や工場の停止、商品の改良などの措置を実行できること
課題を抱えた企業が特に多そうなのは(1)である。もし商品のコンセプトや設計基準が、客先での実際の使われ方と食い違っていて、しかも顧客に危害を及ぼす危険性があった場合、いち早くそれに気づけるだろうか。
(1)を危惧するのは、組織体制が不適切と思われる事例をよく見聞きするからである。一般的に、お客様のクレームを真っ先に受け取るのは「お客様相談室」である。しかし、ほとんどの会社ではこの部署が品質保証関係の部署にぶら下がった形になっている。しかもクレームを受けるコールセンターとしてマニュアルに沿って受け答えする機能を果たしているに過ぎず、「リスクを察知する」という役割までは期待されていないことが多い。クレーム発生後の処理部隊のようなお客様相談室が少なくないのではないだろうか。
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お客様相談室は、品質保証部門の下に置くのではなく、分離して経営トップ直轄になっているのが本来の在り方だと考える。品質保証部門は企業サイドに立ってどうしても自分たちに甘くなってしまいがちだからだ。ついつい「それはお客様の使い方に問題がある」と言い放ってしまう。実際に先日、研修講師として訪れたある企業では品質保証の人が「1000個中2~3個の不良は許容レベルで、それを保つのが品質管理だ」と発言するのを聞いてショックを受けた。「商品1個の不良は、お客様にとっては1個ではなく全てだ」と言われて久しいにもかかわらず、まだこのように20~30年前の感覚で発言をしている品質保証部門もある。
確かにお客様からの指摘事項には、大きな危害につながるかどうか判断が難しいものもある。だが、そもそも新製品を出す際に品質基準を決めてOKを出した立場であるから、品質保証部門の人はどうしても「自分たちに非は無かった」という発想でものごとを受け止めてしまう。もちろんどの商品も、それにかかわる設計者や開発者、品質保証の担当者は良かれと思って世に送り出したに違いない。冒頭に挙げた、オフィス向けシュレッダーのような想定外の出来事に機敏に対応するには、先入観に縛られず謙虚にクレームを受け止める姿勢が欠かせないはずだ。
品質保証部門の下にお客様相談室がぶら下がっていて、本当にお客様の声に敏感になれるのだろうか、またもし、品質基準そのものに問題があったときに、お客様相談室または品質保証部門の人たちがそれをいち早く指摘することができるであろうか。
この問題の重大さに気づいていない経営者はまだ多いように思えてならない。リスク管理が表面的な取組みで終わらないことを、祈るばかりである。
マネジメント・ダイナミクス 社長
マネジメント・ダイナミクスのホームページ:
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