2010年4月末、カルビー営業本部でお客様相談室の室長を務める天野泰守氏は、同社の代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)である松本晃氏から電話で呼び出しを受けた。そして「相談室の皆さんがしてきた努力が正しいことがよく分かった。皆さんにご苦労様と伝えてください」と、称賛とねぎらいの言葉をかけてもらった。

 事の発端は、4月下旬にネット上のニュースサイト「ロケットニュース24」に掲載された「ポテトチップスに異物が混入していたので『お客様相談室』に電話してみた」という同サイト記者の経験談を紹介した記事だった。このような内容だ。カルビーのポテトチップスを食べたところ、繊維のようなものが入っていたのでお客様相談室に電話した、とても対応が良かったので、これまで以上にカルビー派になった――。

 この記事はTwitter(ツイッター)で多くの人から話題にされたこともあって、天野室長らお客様相談室のスタッフもすぐに知ることとなった。そこで天野室長が松本会長と伊藤秀二代表取締役社長 兼 COO(最高執行責任者)にメールで知らせたところ、冒頭のやり取りになったのだ。

 このほかにも同社の電話対応の品質の高さを示すものがある。2005年から独自にカウントしている「再購入率」という指標だ。同社お客様相談室では、苦情主に対して後日はがきを発送し、「弊社商品について今後いかがお考えでしょうか?」というアンケートを実施、返送された回答を週次で集計している。回答の選択肢は「(1)もう買わないと思う」「(2)今までよりも買うのを控えると思う」「(3)今までと変わらずに買うと思う」「(4)今まで以上に買うと思う」の4つ。全体の回答数に占める(3)と(4)の回答数の割合が再購入率になる。

 2010年5月中旬現在の再購入率は96.5%と高い。「2005年にアンケートを開始した当時は92%程度だった。いったん96%まで上がったあと、食品業界全体で偽装問題が相次いだ2007年冬から2008年春にかけて下がったが、ここ2年間ほどは順調に数値が上昇し続けている」(天野室長)。4つの選択肢のうち「(4)今まで以上に買うと思う」は2009年秋から質問票に入れた項目で、これまで180人以上が(4)を選んだ。

苦情主の感情を知れば適切な対応ができる

 なぜカルビーのお客様相談室はこのように苦情主から高い評価をもらえるのか。天野室長は「電話の向こうでお客様がどのような気持ち・感情でいるのか、もっと知りたいという気持ちをスタッフ全員で共有することが、お客様相談室のレベルを高める鍵だ」と話す。

 例えば主婦から「お菓子に髪の毛が入っていた」という電話が入ったとしよう。ただ単に工場に品質問題をフィードバックしさえすればよいということであれば、「いつごろ出荷されたどの製品に髪の毛が入っていたか」をコミュニケーター(オペレーター)が苦情主から聞き出せれば事足りることになる。そしてその主婦あてにお詫びの書面を添えてお菓子を送ることだろう。

 しかし、お菓子を開けて髪の毛を見つけたのは、母親ではなく子どもだったのかもしれない。もしそうだとすれば、「子どもががっかりした、その思いを受け止めてほしい、と思って母親は電話をかけているはずだ」(天野室長)。電話を受けたコミュニケーターがその気持ちにいち早く気づき、「お子さまをがっかりさせて申し訳ありません」と言うことができるかどうか、お詫びの書面の書き出しを「お母さまとお子さまへ」とできるかどうか――。こうした細やかな心遣いが、苦情主の失望や怒りを和らげることに直結すると天野室長は考えている。

 前述のポテトチップスに繊維が混ざっていた事例においても、苦情主の気持ちをくんだ対応があったという。例えば、客観性を担保するために混入していた繊維の分析は社内でなく、あえて1週間ほどかかる外部機関に出したこと。分析に1週間ほど要することについて工場からすぐお詫びの電話をかけてもらったこと。さらに、報告書を送るときに「お待たせして申し訳ありませんでした」というお詫びの気持ちで、2回もお菓子を送ったこと、などだ。