NTTが今,大きく揺れている。その震源地は竹中平蔵総務大臣直轄の私的懇談会「通信と放送の在り方に関する懇談会」(以下,「竹中懇」)。NHKに加え,NTTのあり方に大きくメスを入れるものとなっているからだ。

 NTTのあり方に対する議論が本格化したのは第4回会合から。竹中懇の座長を務める松原聡東洋大学教授が,会合後の会見で「NTTの組織の抜本的な見直しが必要だ」と発言。(関連記事)。NTT東西地域会社のアクセス部門の分離問題やNTT持ち株会社配下の研究所についても言及し,NTT法の改正も辞さない姿勢を打ち出したのだ。

 実はそれに先立つ2005年11月,NTTグループはNTT法を改正しないまま「グループ内の役割の整理」を進める方針を宣言した(関連記事)。かつてNTTグループは97年のNTT法改正とそれに伴う99年のNTTグループ再編劇で,多大な時間と労力を費やした。その過程にかかわった現経営陣は,法改正を回避しながら光ファイバの推進と次世代ネット構築に向けた体制を固めようとしたのだ。

 しかし竹中懇のスタートでその思惑は大きく軌道修正を迫られる。3月には和田紀夫社長が自ら公開ヒアリングに立ち,KDDIの小野寺正社長兼会長やソフトバンクの孫正義社長と激論を交わす羽目に陥った(関連記事)。和田社長としても昨年11月に封じ込めたはずのNTT法改正が,まさか半年もしないうちに再燃するとは思っていなかったはずだ。

 逆の視点から見ると,NTTの組織がこれほどの荒波にさらされるのは久しぶりともいえる。例えば99年の再編時にはNTT持ち株会社に属する格好で落ち着いたNTTグループ内の研究所。松原座長の「研究開発は外部に出すべきだ」との発言を受け,職員の間に動揺が広がったという。

 ただ気になるのは竹中懇の会合ごとに,議論の進展に大きな幅があること。例えばNTTの組織のあり方に対する松原座長の発言は,第4回会合は「抜本的な見直しが必要という意見で構成員が一致した」だったが,第5回会合は「構成員で新たに一致した合意事項はなかった」となる(関連記事)。その事情はいくつか聞こえてきているが,振れ幅の大きさゆえに最終的な落としどころを推測することが難しい。目標とする6月の取りまとめまでに,十分な検討が可能なのかという懸念も浮上している。

 次回の4月20日の第10回会合では,放送分野を総括した第9回会合を受け(関連記事),通信分野を総括する予定である。少なくともここが落としどころの方向を見極めるポイントになることは確か。その内容は見逃せない。

(松本 敏明=日経コミュニケーション 副編集長)