写真 公開ヒアリングに参加した主要な通信事業者のトップ 左奥がソフトバンクの孫社長,真ん中がKDDIの小野寺社長,手前がNTTの和田社長
写真 公開ヒアリングに参加した主要な通信事業者のトップ 左奥がソフトバンクの孫社長,真ん中がKDDIの小野寺社長,手前がNTTの和田社長
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 竹中平蔵総務大臣が主催する「通信・放送の在り方に関する懇談会」が3月22日,第7回会合を開催。NTTの和田紀夫社長,KDDIの小野寺正社長兼会長,ソフトバンクの孫正義社長といった大手通信事業者トップがそろい踏み,公開ヒアリングに挑んだ(写真)。会合は2時間半の予定時間を約30分もオーバーし,熱い議論が続いた。最も盛り上がったのは,NTT東西地域会社のアクセス部門の分離問題についてである。

 今回のトップバッターだった日本民間放送連盟の日枝久会長へのヒアリングが終わると,NTTの和田社長が,NTTの中期経営戦略の推進について説明。懇談会から投げかけられていた,独占回帰への懸念や,アクセス部門分離の見解については,有馬彰取締役が「ブロードバンド市場では各レイヤーで競争が進展しており,中期経営戦略によりNTTの一社独占に戻ることはあり得ない」,「インフラの円滑な構築やサービスの安定供給が損なわれる恐れが大きく,構造分離に伴う多大な労力や混乱が生じるため,諸外国でもアクセス部門の分離を実施した例はない」などと回答した。

 続くKDDIの小野寺社長は,IP化時代の公正競争には,「NTT持ち株会社の廃止とグループの完全資本分離,アクセス部門の分離,当面の措置として,NTTグループ内の人,モノ,カネ,情報の共有を遮断するファイアウォールの設置が必要」と,従来の主張を改めて懇談会のメンバーに訴えた。

 最後のソフトバンクの孫社長は,「一番大切なのは,国民一人一人にとって何が有益かという視点。ブロードバンドは競争により安く,速くなったが,次はそれを国民すべてに提供すること」と切り出した。公開ヒアリングがストリーミング放送されることを利用し,世論を味方につける戦略に出た。

 ソフトバンクの孫社長は,NTTの垂直分離だけでなく,民間企業として光ファイバを引く「ユニバーサル回線会社」の設立を提言。この回線会社が引いた光ファイバ上で,NTTも含めてサービス競争を展開すべきと訴えた。孫社長は,「NTTの中期経営戦略は2010年までに光3000万回線というが,残りの3000万回線はどうなるのか,いつになったら光化されるのか」と問題提起。併せて,NTTのアクセス部門に代わるユニバーサル回線会社により,月額約690円で全国6000万回線の光化が可能という,別の懇談会で披露した孫社長の試算結果を説明した。今回は,ユニバーサル回線会社は全国で一社ではなく,電力会社のように地域ごとに分け,互いに競争させる案も新たに付け加えた。

 通信事業者3社へのヒアリングが一通り終了すると,「KDDIとソフトバンクの主張は明確で,NTTのボトルネック性とドミナンス性をどう考えるかという点に論点は絞られてきている。NTTは反論ありますか」という,懇談会座長である松原聡東洋大学教授によるNTTへの問いかけを皮切りに,NTTのアクセス部門分離の是非に焦点が当たった議論が始まった。

 NTTの和田社長は「(ボトルネックとされる)電電公社時代に敷設した設備は,民営化する際に,複数の専門家により株式に算定し国に返した(形になっている)。しかも,光ファイバは民営化後に本格的に着手したものだ」とKDDIとソフトバンクの主張に真っ向から反論。有馬取締役も「電柱を開放し光ファイバを敷設する実験も始まっている。光ファイバは,今でも引こうと思えば引けるはず」と援護射撃した。

 だが,KDDIの小野寺社長は「有馬氏は,『引こうと思えば引ける』と言ったが,それはその通り。問題視しているのは今の手続きでは時間的にNTTと比べて我々が不利だといっている。『ボトルネック』という考え方が違うのではないか」と切り返し,ソフトバンクの孫社長も「NTTは,政府保証債で引いた国民のものである電話線を光ファイバに張り替えている。光ファイバを張り替えるベースの設備が国民のものなのに,光ファイバを引く引かないをNTTの主観で決めるのはいかがなものか。690円で6000万回線を光化できる可能性があるのに」と完全にNTT対KDDI+ソフトバンクという構図で議論が続いた。

 途中,「(電話設備について)『国民のもの』という言い方はやめていただきたい。今は株主のものです」と和田社長が孫社長の主張に声を荒げて反論し,「政府保証債で引いたものを『国民のものと言うな』というような会社に,将来のインフラを任せてもいいのだろうか」と孫社長が切り返すなど,強烈な応酬が続いた。このやり取りに際し,松原座長は「株式会社といっても,NTTは政府設立の株式会社ですからね」と株主の存在を主張するNTTをやや突き放すようなコメントを放つなど,議論はKDDIとソフトバンクにNTTが押され気味となった印象を残した。

 これまで,NTTの研究開発部門の分離やユニバーサル・サービス業務の見直しという議論が懇談会で出ていた。今後,これらの論点と平行し,NTTのアクセス部門分離についても,より具体的な議論がなされる可能性が出てきた。次回の懇談会は,3月28日の予定。