2009年は、World Wide Web(WWW)誕生からちょうど20年目にあたる。欧州原子核研究機構(CERN=Conseil Europeen pour la Recherche Nucleaire)で、効率的に論文を検索、閲覧するために生まれたといわれるシステムは、その後、米国のネットワークと結びつき、急速に世界中に広がった。

 Webサイトの商用利用が始まり、日本に企業サイトが初めてお目見えしたのは1994年頃である。つまり、企業サイトの歴史はまだ15年程度と浅い。しかしわずか15年の間に、その姿は大きく変貌をとげ、Webサイトの設置目的も利用者の期待も、担う役割も大きく変わってきた。

図1●企業サイトの変遷

閲覧型から活用型へ進化したWebサイト

 企業サイトが生まれてからの約3年間は、「街角の看板」と呼んでいいようなサイトが作られていた。「A社がWebサイトを開設」といった話題で、新聞記事になった時代である。目的は広報・広告のため、「広報・広告型サイト」の時代と呼ぶことにする。Webサイトの存在そのものに意義があり、駅からオフィスまでの地図だけを掲載、または会社案内やパンフレットの内容を、そのまま貼り付けただけでも許された。当時はまだ、情報は企業からWebサイト来訪者への一方通行だった。WWWの誕生前は、企業パンフレットをもらうだけでも一苦労だったことを考えれば、企業自ら情報を出すことは画期的なことだったと言える。

 しばらくすると、情報を一方的に見せる補助媒体としての利用から一歩進み、Q&AやFAQを掲載して、来訪者に自分で問題を解決してもらう仕組みを提供するサイトが登場した。さらに、広告宣伝媒体の一翼も担うようになり、Webサイトの持つ双方向性を生かした「問い合わせ」や「意見の収集」も行うようになった。「インターネット博覧会 楽網楽座(英語名:Internet Fair 2001 Japan、通称:インパク)」が催され、Webサイトの利用浸透に一役買った時期がこの頃に当たる。

来訪者の目的をかなえることが必須に

 その後も、企業サイトは来訪者に利用してもらうことを前提として、発展する。情報閲覧以外の機能として、商品やサービスの問い合わせ、照会、データや資料のダウンロード、製品や型番の検索といった機能が充実し、会員登録や売買も行えるようになった。自分で問題を解決するという意味で、「セルフソリューション型サイト」と位置付けられる。しかし、情報の流通はWebサイトから来訪者に向かう方向が依然として主流なので、99年ごろまでをまとめて「宣伝媒体型サイト」の時代と呼んでもいい。

 Webサイトは、企業側の目論見だけで情報を一方的に流す媒体ではなく、来訪者が来訪目的をかなえて、情報を確実に取得できることが必須である、ということが企業サイトの構築時に理解されるようになった。さらに、Webサイトならではの利便性が一層充実し、いながらにしていろいろなメリットを享受できる機能が企業サイトには備わっていった。「インタラクティブ型サイト」の誕生である。

 企業サイトはこうして、情報を一方的に閲覧させるメディアから、双方向性を生かしたメディア、さらに顧客との接点になるチャネルとして発展していった。

 企業サイトの変遷に合わせて、インターネット利用者側からの要求も変化していった。「街角の看板型」サイトの時代から「セルフソリューション型」サイトの時代には、ただひたすらコンテンツの充実が求められ、企業サイトはたくさんのコンテンツページを用意しようという意識が先行していた。

 しかし、Webサイトはナビゲーションが整っていないと、コンテンツページへたどり着けない媒体である。企業サイト来訪者は、自分の求める情報が掲載されたページへなるべく早く、ストレスなくたどり着きたいという欲求を持っている。ページが増えると、使い勝手の良しあしが問題となり、ユーザビリティへの要求が強まっていった。

 サイト全体に共通したナビゲーションメニューや、分かりやすいリンク名、サイトマップやサイト内検索機能などのサイトサポートが求められるようになった。また、見た目の上でも、見やすいリンクカラーや、クリックできる画像の分かりやすさと読みやすい文字サイズの提供などに気を使う必要性が出てきた。

図2●Webサイトへの要求の変遷

早くから顕在化していたユーザビリティの問題

 ユーザビリティの問題は、企業サイトの登場から数年という非常に早い段階から顕在化していたことになる。それでも十分には解決されておらず、いまだに企業サイトの抱える問題点となっている。

 コンテンツページの充実とともに、情報格差も問題視されるようになった。そこで、アクセシビリティという概念が持ち上がった。2004年にはJIS-X8341-3(ウェブコンテンツJIS)が制定される。高齢者、視覚や四肢に障害を持つインターネット利用者に対応するための一つの目安が示された。しかし、JIS-X8341-3では数値を伴う具体的な基準が明確でない項目もあったため、2010年には数値的な基準を明確にした新しいJISが登場すると目されている。

 また、問い合わせや申し込みなどで自分の連絡先を提供する必要が増えたことから、個人情報保護の考え方の提示も企業サイトへ要求されるようになった。あらゆるページにおいてプライバシーポリシーへ向かうリンクが提示されていること、問い合わせフォームなどからはプライバシーポリシーが閲覧しやすいこと、などは企業サイトにとって欠かせない要素である。

メディア化とチャネル化がもたらした効果測定への要求

 すばやく目的の情報へたどり着きたいというWebサイト来訪者が増えてきたことにより、検索エンジンに対する最適化も要求されるようになった。企業名やブランド名で検索した際に、検索結果の上位に表示されることはもちろん、商品やサービスの一般名称での検索の際にも、対象ページへダイレクトにリンクされることが必要となってきた。

 この流れが、Webマーケティングの考え方に結びついていく。ユーザが商品やサービスの一般名称で検索し、サイトに訪問してくれるようになれば、自社ブランドや型番を知らない来訪者にも、Webサイトを使って「ブランド」や「商品」の告知が可能になる。企業サイトを強い宣伝媒体として働かせることが期待できるということは、ユーザもさらに企業コンテンツの充実を求めるようになってきたことを意味する。

 ターゲットとする来訪者を何度もWebサイトに呼び込み、自社のコンテンツを閲覧してもらい、満足感を与える。満足感を持ってくれた来訪者には、問い合わせ、資料請求、購入などを行ってもらう。つまり、企業サイトをメディアとして働かせ、同時にクライアントが企業に接する第一の接点、すなわちチャネルとして働かせるという考え方が浸透してきたのである。問い合わせや申し込みという機能を充実させることに端を発した、企業サイトをチャネル化する流れは、Webマーケティングの隆盛により拍車がかかることになる。

 企業サイトがチャネルとして働くようになると、顧客との接点が重視されるようになる。Webサイトへ呼び寄せる手段としての電子メールやRSSといった電子的手段との連動性だけでなく、リアルのチャネルである電話応対や実際の窓口、店舗との整合性も要求される。さらに、営業における接点としてWebサイトを位置付けると、当然のように投資対効果が問われる。効果測定も必要となり、管理的視点ではないアクセス解析が必須のものとなってきている。

図3●Webサイトはリアルのチャネルとの整合性も重要