米マイクロソフトで、パブリッククラウドサービスのWindows Azure事業を統括するスコット・ガスリー コーポレート ヴァイスプレジデントが2012年10月4日からの2日間、日本マイクロソフトが都内で開催したイベント「Developer Camp 2012 Japan Fall」に合わせて来日(関連記事)。日経SYSTEMSの取材に応じた。クラウドサービスが普及してWebシステムの構築が簡単になっても、今まで以上にITエンジニアが必要とされるという見解を示した。

(聞き手は西村 崇=日経SYSTEMS



今年6月に発表した新機能にはIaaSが含まれています。これまでのPaaSのサービスにIaaSを追加した理由を聞かせてください。

米マイクロソフトのスコット・ガスリー コーポレート ヴァイスプレジデント
米マイクロソフトのスコット・ガスリー コーポレート ヴァイスプレジデント

 これまで提供していたPaaSでは、負荷分散のやり方などに制約があるため、オンプレミスの環境で稼働していたサーバーを移行する際、プログラムに修正が必要なことが少なくありませんでした。

 あるユーザー企業の担当者からは、「既存システムをPaaSに移すには、数年かけてプログラムを修正していく必要がありそうだ。それでは割に合わない」といった指摘を受けました。そういった声を踏まえて、プログラムを修正することなく移行できるよう、IaaSを追加しました。

 新たに追加したIaaSでは、Windows ServerだけでなくLinuxを搭載する仮想マシンが利用できます。仮想ネットワークも構築できますから、オンプレミスのシステムがより移行しやすくなりました。

IaaSとPaaSの両方が使えるようになりましたが、どのように使い分けるとよいですか?

 IaaSとPaaSはどちらか一方だけを使うのではなく、必要に応じて使い分けるとよいでしょう。

 IaaSで運用するとよいのは、データベース処理やトランザクション処理などで、処理の状態を管理する必要があるステートフルなシステムです。PaaSに移行する上でプログラムの修正が必要なのは、主にステートフルなシステムでした。IaaSを使えば、修正のコストを抑えて移行できます。

 一方、PaaSの用途は、Webサーバーを複数並べてさばくような、処理状態を管理しないステートレスなシステムが向いています。PaaSでは、スケールアウトやスケールインをするのに必要な機能を提供しているので、基盤構築や運用のコストを多くかけずに済みます。

 またIaaSと同じタイミングで、コンテンツ管理ソフトをインストール済みのWebサイト用仮想マシンを提供する「Webサイト」と呼ぶサービスも始めました。Azureの管理画面から簡単な設定をするだけで利用できるようにしてあります。今後数年たってクラウドによる開発が普及したときにも、それまでAzureを使ったことがないエンジニアも抵抗なく使えるはずです。

PaaSやIaaS、Webサイトといったシステムを簡単に構築できる仕組みが提供されるようになると、ITエンジニアは必要なくなるのではないですか?

 いいえ、そうは思いません。Webシステムを簡単に立ち上げられるようになるということは、それだけWebを使ったビジネスが立ち上がりやすくなるということです。ITに関連する市場が拡大しますから、それだけ多くのITエンジニアが必要になると考えています。

 今後ITエンジニアが携わる仕事は、今とは違ってくるかもしれません。ですが、ITエンジニアの力はこれからも不可欠だと考えます。

クラウドを使ったシステム開発では今後、どのようなスキルが求められると思いますか?

 システム利用者のニーズを理解するスキル、ニーズを踏まえてソリューションを設計するスキル、高品質なシステムを開発するスキルは、これまで同様、必須のスキルになります。

 スマートフォンを使うユーザーも対象になってくるので、システムにアクセスするユーザー数の規模が大きくなります。しかも今のWebビジネスの対象顧客は、PCだけでなくスマートフォンなどのデバイスを持つ人にも広がります。

 そうなると、「数百万や数千万単位の同時アクセスをどう処理できるようにするか」「スマートフォンから送られてくる大量のデータをどう分析してビジネスに生かすか」といった新たな課題を、ITエンジニアは解決することが求められることになるでしょう。そういった性能問題やデータ活用に関する課題を解決するために新たなスキルを習得する必要が出てくるでしょう。

■変更履歴
公開当初は「CRMソフトをインストール済みの仮想マシンを提供する」としていましたが、『Webサイト』ではCRMソフトをインストールした環境は提供していません。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2012/10/10 17:30]