昨今、「国内回帰」というキーワードを目にすることが多い。背景には、新興国における賃金上昇、輸送コストというデメリットが目立ちはじめたこと、それに国内回帰によって設計部門と製造部門を近接させることで得られるメリットが改めて意識されたことがある。こうした企業側の事情に加えて、米国の例に見られるように失業率改善といった政治的な意図も働き、製造拠点を国内へ引き戻そうという兆候が見え始めている。

 日本でも、トヨタが新型カローラを宮城県大衡村にあるセントラル自動車宮城工場で生産することを先日発表した。これには震災復興への寄与も期待されている。

レノボの国内生産は日本市場での足固めが目的

 だが、こうした「国内回帰」の動きについては中身をきちんと見極めることが重要だ。

 NECと合弁会社を設立した中国レノボは、NECのPC製造拠点であるNECパーソナルコンピュータの山形県米沢工場に、レノボ製PC生産の一部を移管する。これを「メイドインジャパン」の復興と捉える見方もある。だが、これらの動きはむしろ、レノボが自社製品を日本へ展開する際に必要となる足がかりを固めるための動きと見るべきだ。

 レノボが日本市場でシェアを拡大するには、個人向けPCにおけるサポートの充実や企業向けPCにおける個別対応力(セキュリティ維持の観点からUSBポートを塞ぐなど)の強化が欠かせない。実際、米沢工場で行われるのは、企業向けPCのCTO(Configure To Order:注文仕様生産)とされている。また両者が合弁会社を設立した後、最初に開始した取り組みは、レノボ製の個人向けPCにおける電話サポート「レノボ・スマートセンター」業務のNECパーソナルコンピュータへの委託である。

 一方で、同じ国内工場でもパナソニックがノートPCのレッツノートを生産する兵庫県神戸工場では、マザーボードの実装や基盤生産まで行っている。サポートやCTOといった観点を省いて、PCを単なる「箱」として捉え、国内外を跨(またが)るPC生産工程のうちの国内工場という「点」だけしか見ていないと、本来は全く異なる取り組みが同じ「メイドインジャパン」に見えてしまうので注意が必要だ。

国内回帰と海外展開はペアで考えるべき

 このように「国内回帰」を捉える際には、「何を国内で行っているのか? or 行うべきか?」といった中身を見極め、対語ともいえる「海外展開」とペアで考えることが大切である。

 例えば、富士通は2013年度を目処に、PC出荷台数を年間1000万台とする目標を掲げている。島根県斐川町で生産されるノートPCを「出雲モデル」、福島県伊達市で生産されるデスクトップPCを「伊達モデル」として、「メイドインジャパン」をアピールする同社だが、上記の目標を達成するために不可欠なボリューム販売を担うのはODM(Original Design Manufacturing:相手先ブランドによる設計・製造)を活用した海外向けの低価格製品だ。つまり、「国内回帰」と「海外展開」は対立するものではなく、ビジネスの両輪として考えるべきものと言える。

 一方、国内政治が混乱して景気回復の目処が立たない中、欧州金融不安や米国の失業率改善の足踏み、新興国の成長鈍化などの影響により、消去法での選択肢としての円高が続いている。

 この状況が今後も継続するとなると、製造業を中心に海外への移転を再考せざるを得ない可能性もある。そこで、以下では「国内回帰」と相反しない「海外展開」への取り組みと、その際のIT活用におけるポイントについて考えていくことにする。

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