クラウドはすでに、企業のIT活用基盤の主要な選択肢の一つとなっている。最初からクラウドを前提としてシステムに関する諸々の検討を行う「クラウドファースト」という言葉をご存じの方も多いだろう。
だが、大切なことは「クラウド」か「社内設置(オンプレミス)」かの二者択一ではなく、適材適所でIT活用基盤を選択することだ。今回は、調査データが示す、昨今のクラウド選択についてのポイントを見ていくことにしよう。
「クラウドのみ」は減少、今後増えるのは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)時代に向けて、新たなITソリューションの導入に取り組む企業の動きが加速している。こうした企業は、どのようなシステム形態を求めているのだろうか。
下のグラフは、年商500億円未満のユーザー企業に対して、「最近のIT活用の取り組みにおけるシステム形態として、クラウドとオンプレミスのどちらを選んでいるか」を尋ねた結果である。直近の変化を読み取るため、既に導入済みのITソリューションと今後導入を予定しているITソリューションに分けて集計した。グラフ中の「SaaS」「PaaS」「IaaS」が、クラウドに該当する選択肢となる。
このグラフでまず目を引くのは、「導入済み」に比べて「導入予定」では「SaaS形態のみ」の回答比率が大きく減少している点だ。
SaaSでは業務アプリケーションも含めたシステム全体を月額や年額のサービスとして利用できるため、ユーザー企業にとっては初期費用の負担が少ない。その一方で、個別の要件に合わせて業務アプリケーションを改変することは難しい。
ユーザー企業への対面取材や調査では、「DX時代に向けて競争力を高めるためには、競合他社と同じ業務アプリケーションをサービスとして利用するだけでは十分でない」という意見も少なくない。「SaaS形態のみ」が減少している背景にはこうした要因があるものと考えられる。
IaaSの場合はサーバーなどのハードウエアをサービスとして利用し、OS/ミドルウエアおよび業務アプリケーションはユーザー企業が自由に選択できる。また、PaaSではハードウエアやOS/ミドルウエアがサービスとして提供されており、業務アプリケーションはユーザー企業が独自に構築するのが一般的だ。
そのため、IaaSやPaaSであれば上記に述べたSaaSの課題をクリアできる。だが、上記のグラフを見ると、「IaaS形態のみ」や「PaaS形態のみ」の回答割合は「導入済み」と「導入予定」でほぼ差はない。ユーザー企業にIaaSやPaaSの課題を尋ねてみると、「社外に出せないデータがある」や「既存のアプリケーションを対応/移設させる負担が大きい」などの意見が聞かれる。
つまり、業務アプリケーションを個別要件に対応させることが可能であったとしても、データ保護やシステム移行などが障壁となってくるというわけだ。そのため、IaaSやPaaSは「秘匿性の高いデータを扱わず、新規に構築するITソリューション」に使われるケースが多くなってくる。一般の企業では、それほど頻繁に新規のシステムを構築することはないことから、他の選択肢よりも差が少なくなっていると考えられる。
一方で、グラフ上段の3つの選択肢を見ると、「導入済み」よりも「導入予定」の回答比率が高くなっている。この3つの選択肢はいずれも「オンプレミスとクラウドの組み合わせ」に該当する。例えば、「予約/販売のシステムをスマートフォンに対応させたいが、オンプレミスの既存システムをクラウドへ移行するのは難しい。そこで、スマートフォン向けに予約/販売を受け付ける画面部分のみをクラウド上に構築し、既存システムにデータを受け渡す仕組みにする」といったケースが考えられる。
このように昨今の傾向を見てくると、「クラウドファースト」は必ずしも、全てをクラウドで実現する「クラウドオンリー」を意味するわけではなく、重要なのは、ITソリューションを構成する「部品」の一つとしてクラウドを捉えることだということが分かる。