以下の記事は2007年から2010年にかけて日経ソリューションプロバイダ、日経コンピュータに連載された記事の1つです。執筆時の情報に基づいており、取り上げた製品・サービスには現時点で古くなっているものもありますが、商談の経緯を知ることはユーザー企業にとって有益と考え、再掲しました。

顧客は、オープンソースのERP(統合基幹業務システム)パッケージを導入できるかに不安を抱いている。SE出身の営業担当者は、開発経験を生かし、技術的に問題がない点を訴えた。

 「顧客の要望を聞いたら即座に解決策を述べる。これが自分の得意技だ。具体的な要望を聞ける次の訪問が勝負になる」。ソフトメーカーのアルマスの社長で、中国の内モンゴル自治区出身の吉日木図(ジリムト)は、2回目の顧客訪問を前に気を引き締めた。

 アルマスは、ソフトメーカーの米コンピエールが開発したオープンソースのERPパッケージ「Compiere」の日本語化と導入支援を手掛ける。従業員は15人である。Compiereの導入実績はまだ8社だ。

 顧客を開拓するため、吉日木図がCompiereの提案活動を地道に続けていた2008年4月。Compiereに関する情報提供を求める、一通の電子メールが届いた。

 建築物の害虫駆除や空気環境の測定などのサービスを手掛ける、環境コントロールセンターからだ。同社は販売管理システムを再構築する手段として、Compiereに興味を持ったのである。従来の販売管理システムのままでは、契約管理業務の効率が上がらないことが、課題になっていたのだ。

 環境コントロールセンターの取締役で情報管理室長を務める韓国出身の張亨在は、2008年3月から、新システムの開発委託先の選定作業を進めていた()。

表●環境コントロールセンターがアルマスに発注するまでの経緯
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 付き合いのある大手複合機メーカーA社や、建設会社向け販売管理パッケージベンダーのB社である。ビルメンテナンス会社向け販売管理パッケージベンダーのC社にも声を掛けた。

要件を聞いたその場で提案を図示

 張のメールを受け取った吉日木図は2008年5月6日、環境コントロールセンターを訪問。吉日木図はCompiereの製品説明と導入事例を紹介した。

 「パッケージなのでゼロから開発する必要はないが、独自開発と同じように機能を追加しやすそうだ」。張はCompiereを評価した。

 「5月中には要件をまとめ、説明します」。張はこう吉日木図に伝え、1カ月後に再度訪問するよう告げた。

 「第一関門をクリアした。次は我々の技術力をアピールしよう」。吉日木図は意気込んだ。

 2度目の訪問の2008年6月5日、吉日木図は、張からA4用紙5枚の資料を受け取る。既存システムの概要や業務フロー、新システムの要望などが記載されているものだ。

 吉日木図は、内容を張に確認。張の回答を聞きながら、その場で提案を始めた。

 Compiereのカスタマイズ手法を、持参したノートに書いていったのである。「御社の業務に適用するには、入力画面をカスタマイズしなければなりません」。

 こう言いながら、システムの入力画面のレイアウトを図に示した。「受注」や害虫駆除や環境調査の対象となる「物件詳細」、サービスに必要な「薬剤」「機材」などの入力項目を列挙。標準機能で対応できるところと、カスタマイズする部分を明確に示した。

 吉日木図は、「データベース構造も見直すべき」と張に進言した。従来システムは、データベース設計の都合で、「衛生管理事業の契約1件に付き、データを管理できる作業項目数が最大12件」という制約があったためだ。

 環境コントロールセンターは、13件以上の作業を依頼されると、契約を複数に分割してもらうよう、顧客に依頼しなければならなかった。この点が課題にもなっていたのである。

 「初めて資料に目を通したにもかかわらず、機転が利く。小さな会社だが、技術力もありそうだ」。張は吉日木図の提案に好印象を抱いた。

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