米アップル コンピュータの新OS「MacOS X」が米国時間3月24日に発売された(日本での標準小売価格は1万4800円,米国では129ドル)。業績不振を打開するヒット作となることが期待されているが,いまのところ評価はまちまちだ。

 アップル社が強くアピールするいくつかの新機能は高い評価を受けている。プリエンプティブのマルチタスク機能や,プロテクテド・メモリー(一つのプログラムがクラッシュしても,残りのアプリケーション・ソフトウエアや全体のシステムは守られる),Dock(デスクトップの底辺に現れる新ツールバー。例えばビデオが小さくアイコン化されても動き続けていたりする)などがそれに当たる。動作の安定性も優れていると言われる。

 一方低い評価を受けているのは,「DVDドライブ」や「CD-RWへの書き込み」に対応しない点である。この欠点を補うためにアップル社は当初,MacOS Xの購入者にMacOS 9.1を無料で提供する。DVDを再生したりCD-RWに書き込みたいユーザーは,MacOS XからOS 9.1に切り替えて使うことになる。

 しかしβ版を使って試した人たちによれば,「MacOS 9.1に切り替えた後は,面倒なのでそのまま使い続ける」ケースが多いという。これではせっかくの新OSが宝の持ち腐れ。ちなみにアップル社は,「次回のバージョンからは,DVD再生機能などを組み込む」と発表している。

 MacOS Xは7年越しの新OSである。Macintoshファンにとって,まさに待ちに待った一大変革だ。アップル社が次世代OS(開発コード名:Copland)の開発計画を発表したのが1994年3月。しかし機能を欲張ったことなどが原因で,開発は遅れに遅れた。経営の混乱も,開発の足を引っ張った。

 このあいだにCEOが3人交代したが,ジョン・スカーリー氏がCEOを務めた1994年~95年にかけては,期待のPDA「Newton」の壊滅的失敗などがあって,アップル社はあわや買収されるところまで追い詰められた。96年末にアップル創設者の一人であるスティーブ・ジョブス氏が経営に復帰し回復基調に乗ったが,新OSの開発計画は風前の灯火だった。

 ジョブス氏は,旧経営陣から引き継いだプロジェクトと,自らが米ネクストから持ちこんだ別のOSプロジェクトを一本化することで,ようやくMac OS Xの開発は再開したのである。

 OSのような中核商品の出荷延期は,パソコン・メーカーに大きな打撃となる。ユーザーは新しい商品が出るまで買い控えする傾向があるからだ。その出荷が次々と延期されれば,売上高げの低下につながる。

 パソコン業界では,「この7年間にわたる経営の混乱と発売延期による損失を,十分に埋め合わせるほどの力がMacOS Xに備わっているか」に関心が集まっている。いまのところ,DVD再生とCD-RWへの書き込みに対応しない欠点を除けば,システム全体としての評価は高い。パソコン業界のアナリストのあいだでは,「MacOS Xによって,アップル社の業績は大幅に改善する」という予想が大勢を占める。

 とはいえ本格的に売れ始めるまでには,ある程度の時間がかかりそうだ。アップル社の業績は2001年3月期に黒字に転ずるとみられているが,MacOS Xの貢献はほとんどなさそうだ。原因は,MacOS X対応のアプリケーション・ソフトの開発が遅れていることである。

 たとえば米マイクロソフトのOfficeの出荷は今秋。アップル社は「全体で2万本以上のアプリケーション・ソフトウエアがMacOS X向けに開発される」と発表しているが,その多くが当初はMacOS Xのclassic modeでしか動かない。Classic modeとはつまり,MacOS 9.1と同等の環境を意味する。

 以上を総合的に判断すると,MacOS Xが本格普及するのは同社のパソコンにMacOS Xが標準搭載される今年夏から秋以降になりそうだ。

(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)小林 雅一 近影
1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年)がある。

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