2001年1月第2週は前半(6~9日)に民生機器の見本市「Consumer Electronics Show(CES)」,後半(9~12日)に「MACWORLD EXPO」と,今年のIT業界のトレンドを指し示す重要イベントが立て続けに開催された。

 今回は,ITスランプがささやかれるなか開催された二つの見本市から,2001年のIT事情を読み解いてみよう。

 CESはここにきて,従来の「家電見本市」から「IT見本市」へと様相を完全に変えた。2000年11月に開催されたパソコン見本市「COMDEX」と,ほとんど見分けがつかない状態だった。Intel MP3 Player

 米マイクロソフトや米インテルといったITメーカーは,「家電市場を制しない限り,売り上げの頭打ちは解消できない」ということを熟知している。日本の家電メーカーの向こうを張って,米国のITメーカーが大挙して押し寄せたのが2001年のCESだった。

 12万平方メートルという巨大会場で注目を集めたのは,500円硬貨ほどの大きさの記憶媒体だった。米DataPlayが出展した光ディスクは,最高500Mバイトの記憶容量を持ち,MP3ファイルなら11時間分,高解像度の画像なら250枚分を記録できる。価格は記憶容量に応じて5~12ドル。米Universal Musicや東芝など,エンターテインメントや家電業界の大手企業が開発を支援している。

 インテルは会場のど真ん中に巨大ブースを設け,今年後半に登場する予定の携帯端末(PDA),インターネット閲覧タブレット,MP3プレーヤ(写真)など多様な製品を出展した。これまで主要顧客だったビジネス・パーソンだけではなく,10代の若者を含めた一般消費者にまで製品開発の間口を広げつつある。

 インテルと歩調を合わせるようにマイクロソフトも家電市場の開拓に,全力を尽くしている。見本市前半の話題を独り占めした次世代ゲーム機「Xbox」,パーソナル・ビデオ・レコーダ(Personal Video Recorder)を組み込んだ次世代TV「Ultimate TV」など,エンターテインメント指向のビジネス戦略を鮮明に打ち出した。Ultimate TVは高品位画像を35時間記録でき,インターネット端末にもなる。

 一般消費者指向を鮮明にしているようにみえるインテルとマイクロソフトだが,軸足はあくまでパソコンにあるというのが筆者の見方だ。以上のような家電製品(Household Appliance)を制御する中核を担うのがパソコンという位置付けである。

 いわゆるホームネット・ワーキング製品や車載情報機器も関心を集めた。米Be At Homeは,外出先からWWWブラウザを介して家庭内の電気・情報機器を制御するデモンストレーションを披露した。自動車メーカーの車載インターネット端末,携帯電話メーカーの無線インターネット端末など,今やお馴染みのポスト・パソコン製品が目白押しだった。

土俵際のアップル,MacOS Xが注目されたMACWORLD

 2000年秋にテスト・バージョンが発表されて以来,注目され続けてきたMacOS XがMACWORLD EXPOにおける最大の目玉となった。

 いったい何社のアプリケーション・ソフト・ベンダーがMacOS Xに対応するか・・・。米アップル・コンピュータの未来は,まさにソフトウエア・ベンダーの動向にかかっていたからだ。Apple Titanium PowerBook G4ちなみにMacOS Xの正式な出荷日は3月24日となった。価格は129ドルである。またMacintoshに組みこまれて出荷されるのは7月になる。

 Power Mac G4 Cubeの売り上げ不振やIT不況の影響を受けた株価急落を受けて,アップルはアプリケーション・ソフトウエア・ベンダーをつなぎ止められるかどうかの瀬戸際にいる。このため,「次世代のMacOS Xを普及させるために,アップルは既存のMacユーザーには無料でOS Xにアップグレードするのではないか」と見る向きもあるほどだ。しかし逆に,これが新製品の買い控えにつながることも考えられ,アップルは慎重な対応を迫られている。

 こうしたなかなか,マイクロソフトがMacOS X向けに「Office for Mac OS X」を出荷すると発表した。出荷は2001年秋と少し先の話だが,アップルにとって強い追い風となった。アップルにとっては,「まずはひと安心」といったところだろう。

 ハードウエアでは,大幅な性能向上を図ったデスクトップ・パソコン「新型Power Mac G4」と,ノート・パソコン「Titanium PowerBook G4」が出展の中心となった。

 Power Mac G4シリーズは,CPUの動作周波数が466~733MHz,価格が1699~3499ドルと事前の予想通りの発表となった。上位機種には長らく待たれたCD-RW/DVD-Rドライブ(「SuperDrive」と呼ぶ)を装備した。

 Titanium PowerBook G4は,アップルがビジネス市場に本格参入するために開発されたマシンである。教育市場やアーティスト向けには根強い人気を誇るアップルだが,機能性とコスト・パフォーマンス,携帯性などが重視されるビジネス市場では伝統的に弱い。しかし従来の市場が頭打ちになるなか,ビジネス市場に食い込めるかどうかに同社の未来はかかっている(ちなみにノート・パソコン市場でアップルは,徐々にシェアを拡大している。米データクエストの調査によれば,2000年第3四半期の同社シェアは4.98%と,前年同期の3.6%から拡大した)。

 シェア急拡大への足がかりとしたいTitanium PowerBook G4では,薄さ(携帯性,デザイン)と共に機能性を強く打ち出している。厚さは約1インチ。56kモデム,USBポート,FireWire(IEEE 1394)ポート,10/100BASE-T対応のLANポート,無線LAN「AirMac」(データ転送速度は11Mビット/秒)を標準で装備した。500MHzあるいは400MHzのPowerPC G4プロセサを載せた。15.2インチの大型ディスプレイは見易さを狙ったものだが,携帯性を犠牲にしているとの批判もある。

(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)小林 雅一 近影
1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年)がある。

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