米ハイテク株相場は,大荒れの展開となっている。7月から9月にかけて米Dell Computerの株価が32%,米Intelが31%,米Microsoftが23%も落ち込んだ。主力企業の業績不振に引きずられ,Nasdaq総合指数は同期間に7.4%下落した。

 崩れ出した相場展開に拍車をかける格好になったのが,米国時間9月29日に起きた米Apple Computer株の急落だ。この日,同社の株価は前日の終値から27ドル余り(52%)下落し,25ドル75セントをつけた。13カ月をかけて蓄積したApple社の株価上昇額が,1日で消え失せた。時価総額で約100億ドル(1兆円余り)が消えた計算になる。取引高は1億3200万株に達したが,これは米国で史上8位となる。とにかく猛烈な勢いで売られたのだ。

 一体,Apple社に何が起きたのか?

 株価暴落の背景には,同社の特殊事情とともに,パソコン市場全体を貫く,一般的な要因も存在するようだ。まず直接の引き金となったのは,前日に発表された第3四半期の決算見込み。このなかで同社は,7~9月期の売上高を事前の予想から大幅に下方修正し,18億5000万ドル~19億ドルになると発表した(業界アナリストらは,これまで約28億ドルの売り上げを予想していた)。下方修正の理由として同社は,9月に入っての米国経済冷え込みによる売り上げ低下,同社の得意とする教育市場での思わぬ不振,そして期待の新製品「Power Mac G4 Cube」の出足不調などを挙げた。

 Apple社は今から4年前に,創設者のSteven Jobs氏がInterim CEO(臨時最高経営責任者)として復帰して以来,奇跡の復興を成し遂げた。当時,赤字を垂れ流し,市場シェアを新興メーカーに奪われ,青息吐息の状態で,もはや業界から消え去るのは時間の問題と見られていたApple社は,Jobs氏のカリスマ的指導力と時代の先を読む製品企画力によって,息を吹き返した。

 Jobs氏が復帰第1弾の有力商品として投入したiMacは,「中身(性能)より外観(デザイン)」の製品企画に基づいたパソコンである。ポスト・パソコン時代におけるコンピュータ関連技術の飽和を見通し,パソコンがこれからは,デザインを重視する自動車のような商品になると予想したのだ。価格を1200ドル前後と,同社としては低目に抑えた戦略も功を奏し,iMacはApple社復活の起爆剤となった。

 この勢いに乗って,プロフェッショナル向けのGシリーズも売れ,Apple社は長年の不振を脱却して,安定した成長軌道に復帰したかに見えた。それが,ここに来ての突然のつまずきである。今年の夏以降,Apple社商品の売り上げは急激に低下した。オンライン小売業界における同社製品の在庫率は,7月の20%から8月には40%にまで膨れ上がった。

 業界アナリストらは,Apple社のマーケティングの甘さを指摘する。確かに同社は過去4年の間に市場シェアを取り戻したが,新たな市場を開拓することを怠ってきたというのだ。Apple社は創設時から教育市場やデザイン市場では強かったが,今でもこれらの市場からの需要に強く依存している。こうした分野に根強いファンを抱えるものの,既存のユーザーというのは新規ユーザーに比べて,新商品への反応が鈍い。すなわち相当の技術革新がない限り,買い替え需要が衰えるのは時間の問題というわけだ。

 しかも「相当の技術革新」は,現在では「相当に難しく」なっている。「中身よりも外観」という戦略は,いわば苦肉の策だったわけだが,それだけで高成長路線を維持するのは難しかったようだ。Apple社の次期OS「Mac OS X」が投入されるのは,来春以降の見通しだが,それまでは売り上げを爆発的に伸ばす材料は見当たらない。

 結局,Apple社の過去4年間の奇跡的な成長は,「過去に失われた市場を取り戻した」結果であって,新たな市場を作り出したのではなかった。モタモタしている間に,同社の得意とする教育市場にも,ライバル・メーカーが侵食してきた。1999年にApple社は教育市場での売り上げ首位の座を,Dell社に明け渡した(シェアはDell社が21.4%,Apple社が16.5%)。

 Jobs氏の得意とする先見的な製品企画と,ユーザーの要求とのあいだに乖離(かいり)が生じ始めた。モデル・チェンジのたびにデザインを洗練し,プロセサの性能を高めてきたが,周辺機器の選択で,重大な間違いを犯したとの指摘がある。たとえばApple社のお得意様である学生は,インターネットからダウンロードした大量のMP3フォーマットの音楽ファイルを保存するために,CD-RW(読み書き可能なCD)をよく使う。こうした時代環境を反映し,現在小売店で売られているパソコンの40%には,CD-RWドライブが標準装備されている。ところがApple社のパソコンには,これが装備されていない。

 今回,突然訪れた危機を脱却するには,「見栄えの良さ」に匹敵する,新たな商品戦略を見出すことが必要とされている。さて,Jobs氏はもう一度奇跡を起こせるだろうか。それとも別のヒーローが現れるのか・・・。

(小林雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

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