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記者の眼

なぜプロジェクトマネジメントは普及しないのか

谷島宣之 2003/10/20 ITpro

 プロジェクトマネジメント(PM)の普及と定着は日本にとって重要であると考え,あちこちの雑誌やWebサイトにPMの原稿を書いてきた。しかし,読者から反論や批判を結構いただく。「PMなど役に立たない」「海外の手法を取り入れてうまくいくなら苦労などしない」といった意見である。

 なぜ反感を持たれるのか。Webサイトで発表したコラムに対する読者の書き込みを読むと,反発理由として,PMに関する三つの「ない」が考えられる。まず,PMの考え方自体が正確に「知られていない」。一通りの考え方を知ったとしても,「納得できない」。さらに困ったことに,「理解したくない」という拒否派が存在する。

 筆者がWebサイトで最初にPMについて書いた記事は,「『プロジェクトマネジメント後進国』の日本がナンバーワンになる日」であったかと思う。とにかく読んでいただかないと話が始まらないのでわざとこういう刺激的な題名にした。

 趣旨は次の通りである。日本人は体系立てたやり方をしなくても,とにかくプロジェクトをやりきってしまう。そのためかえって,PMBOK[用語解説]に代表される,いわゆる「モダンPM」は日本で普及しなかった。ただし,もともとプロジェクトに向いた国民性があるのだから,PMBOKのような体系立てたやり方を導入すれば,日本はPMの先進国になれる――

 自分で要約を書いてみて,いささか粗っぽい論旨であったと思う。言いたかったのは,日本企業も標準化かつ体系化されたPM手法を取り入れる時ではないか,ということである。ただし読者からは,「何を持って後進国というのか」「日本人はプロジェクトに向いているのか」などと,批判をたくさんいただいた。

 いささか意外であったのは,PMBOKやモダンPMについてご存じない方が案外いらっしゃったことだ。それでは筆者が何をもって後進国と言ったかが理解されないわけで,議論がかみ合わなくなってしまう。

 ちなみにPMBOKは,米国のPM推進団体PMI(Project Management Institute)がまとめたPMの知識体系である。スコープ,タイム,コスト,クオリティ,リスク,調達,ヒューマン・リソース,コミュニケーションといったプロセスごとにマネジメントをしていこうというものだ。モダンPMとは,こうした標準知識体系を利用したPMのことである。実際のプロジェクトで得られた知識やノウハウを知識体系の上に蓄積することで,組織のPM推進力を強化する狙いがある。

モダンPMは「知られていない」

 現在,モダンPMは一種のブームの様相を呈している。書店に行けば書籍がたくさん並んでいるし,PMBOK2000の和訳も順調に売れている。IT業界がようやくモダンPMに取り組みだしたことが大きい。とはいえ日本全体を見渡すと,筆者はモダンPMはまだまだ知られていないと思う。

 その理由として,「五つの悪者」がいる。第一は,メディアである。モダンPMやPMBOKといった言葉を知っている新聞記者はほとんどいないだろう。雑誌も同様である。だからPMのことは報道されない。企業のさまざまな活動をPMの視点から分析すると,かなり面白い記事が作れるのであるが,なかなかお目にかかれない。

 第二は,書きにくいが日本のPM推進団体である。なぜか四つも団体があるが,いずれも会員は2000人に満たない。日本の経済規模を考えると,10万人とまでは言わないが1万人くらいの会員を持つPM団体がないとおかしい。このくらいの規模の団体になればメディアにもいい意味で影響力を発揮できよう。

 第三は,個々の企業である。社員教育のテーマにPMを取り入れる企業が出てきているがまだ少数である。IT業界を例にとると,SEをきちんと教育をしようとしているソフト会社と,とにかく若者を採用して客先に放り込む会社を比べると,残念ながら後者のほうが多いと思う。そもそもIT業界では,プロジェクトのマネジメントは顧客かコンピュータ・メーカーがやってくれることになっており,社員に教える必要があまりない。

 第四は,個々人である。PMを学ぼうという人がなかなか増えない。SEを例にとると,一部かもしれないがSEの方々は案外保守的なところがある。最新の開発言語やOSには興味を抱いても,「なんとかマネジメント」のような面倒なものにはあまり魅力を感じないのである。

 第五は,顧客である。依然として,SEをかき集めて泥縄方式で開発することを好む顧客がかなりおられる。こういう顧客に限って,プロジェクトマネジメント費用を請求すると必ず削ろうとする。

「知ったけれども納得できない」

 それでもモダンPMというものが単に知られていないだけならば,話はそう難しくはない。時間が経過すれば普及するはずだからだ。しかし,問題は少々ややこしい。モダンPMやPMBOKを一通り知ったけれど,納得しない人たちが相当数おられる。納得しない人たちが言う台詞は,大きく二通りある。「こんなことはとっくにやっている」あるいは「PMBOKなんて役に立たない」である。

 「とっくにやっている」とおっしゃる人はとりわけ製造業に多い。日本の誇るTQCを手がけてきた企業の方々は,「品質管理とどこか違うのか」と怒り出したりする。筆者が先の原稿で,モダンPMについて,「従来の品質・コスト・納期に加え,コミュニケーションやリスク,人材,調達などを総合的にマネジメントするものだ」などど書いたところ,社内の同僚から,「そんなことは製造業では自明です」と指摘されてしまった。ちなみにこの同僚は,ある造船会社出身である。

 つまりモダンPMと従来のTQCとはどこが違うかをはっきり説明する必要がある。そこでPMの専門家の方々にいろいろ教えてもらい,いくつかの記事を書いてみた。

マネジメントとコントロールは違う
 ~プロジェクトは選別して取りかかる

 これは,PMBOKの中にプロジェクトを選定するフェーズがあることに注目した記事である。つまり,単に命令通りに遂行するのではなく,「そのプロジェクトを遂行すべきかどうか」を最初に考える点が今までとは違う,という論旨である。つまり,素晴らしい品質管理をして納期通りに製品を開発したとしても,まったく売れなかったら,そのプロジェクトは失敗ということである。

プロジェクトマネジメントは本当に新しい話か?
 この記事では,異なるスキルを持つ人が集まって顧客指向の活動をするのがPM,高品質の製品を大量生産するのがQC,といった説明を試みた。

「プロフェッショナル責任」を果たす
 米PMIはプロジェクトマネジャの資格試験を実施している。試験に出るテーマの一つに「プロフェッショナル責任」がある。技術者倫理のテーマはPMに限ったことではないが,PMIの定義はよくできていると思う。これもモダンPMの特徴と考えて紹介する記事を書いた。

 さて,納得しないもう一つの理由はPMBOKそのものにある。PMBOKを読んだ人の反応はいろいろである。「長年,我流で確立してきたPMのノウハウは,こうやって他人に説明すればいいんだ」と目からうろこが落ちたプロジェクトマネジャもいれば,「いったいこんな能書きだけでどうやってプロジェクトを成功させるのか」と怒る人もいる。

 「PMBOKが大事」という記事をたくさん書いたこちらにも責任があるが,「知識体系」というものへの過度な期待があるような気がする。PMBOKはあらゆるプロジェクトに共通する要素を体系としてまとめてあるだけで,具体的にどうすればうまくいくかについてはほとんど書かれていない。したがって,「PMBOKはPMノウハウ書の決定版」と思った人は,PMBOKを読むと怒り出す。

一番困る「理解したくない」

 納得しない人たちに対しては,気長に説明するしかない。きちんと説明すれば理解は得られると思う。「TQCにもよいところがあったが,足りないところを補完するのがPM」といった言い方が必要であろう。

 ただし,それでも反発する人がいる。これは,心情的に理解したくない,とにかくいやだ,という人々である。これは困る。

 まず,「PMBOKがデファクトスタンダード」という表現に抵抗を示す人がいる。「なぜ米国の手法を持ち込むのか。日本には日本のやり方がある。ISO9000が一体何の役に立ったのか」という意見である。

 また,「マネジメント・イコール・管理」と考え,それに反発する人もいる。深読みかもしれないが,かつてのTQCで苦労された人が相当数おられるのではないか。プロジェクトマネジメントと書くと長いし,プロジェクト管理では意味が異なる。PMでは読みにくい。いい日本語訳があればよいのだが,「段取り」あるいは「統合手配」では,いずれも今一つである。

 PMに反発する人たちを見ていると,日本の文化にそもそもトップダウンの手法であるPMはそぐわないのかという気もしてくる。

三つの「ない」への対策

 三つの「ない」への対策を考えてみた。結局,多くの方にモダンPMを常識の一つとして理解していただくことに尽きる。

●メディアの啓蒙
 何と言ってもメディアの影響力はまだ大きい。多くのメディアがPMをもっと理解するようにしなければならない。意見が分かれるところであるが,社会的に話題になったプロジェクトが出現した場合,PM推進団体がコメントを積極的に出す手もある。

●ビジネス・パーソンの啓蒙
 PMの考えは,一般のビジネス・パーソンにとっても有効である。PMと言うより,「仕事をうまく進める手法」として,普及することが望ましい。

●経営者への啓蒙
 PMはトップダウンの手法であり,トップを啓蒙することは必須である。PM関係者の英知を集めて,経営者向けの啓蒙本を作ってはどうだろう。

●子供の啓蒙
 子供のころからPMを教えることは重要である。実際,いくつかのPM推進団体が子供向けPM教育に取り組んでいる。その成果に期待したい。

モダンPMは成功のための一要素

 最近,筆者が尊敬しているIT業界関係者の方からこんなことを言われた。「PMは大事ですが,それだけやっておればいいというわけではありません。新しいことをやるんだ,という強い意志と構想力が大前提です。PMは決めたことを納期通りに実施するだけです。決めたことが斬新でなかったら,PMの意味がありません」

 これはこの方の指摘通りである。PMの重要性だけを連呼しすぎたきらいはあった。プロジェクトといっても様々である。手はずがある程度確立しているものもあれば,新薬やロケットの開発のように,まったく新しいやり方で進めないといけないプロジェクトもある。

 こうした未知数が多い,挑戦的なプロジェクトを成功させるにはどうしたらよいか。この問題を考える催しを企画した。プログラムは,こちらのページにて公開している。

 講師をお願いした東京大学の宮田秀明教授は,アメリカズ・カップというヨット・レースでプロジェクト・リーダーを務めた。これは「世界一速いヨットを作る」というゴールだけが決まっていて,実際にどうやるかについても考えながら進めたプロジェクトであった。前例がないまったく新しいプロジェクトに取り組もうとしている方には参考になると思っている。

 この催しでは,講演者と聴講者が対話できる時間を長くとってある。一方的に話を聞くだけではなく,聴講者の方から質問をしていただいたり,問題提起をしてもらい,それについてさらに意見交換をする,といった内容を想定している。本稿に意見のある方,異論がある方はお時間が許せばぜひ参加いただきたい。

 なお本稿は,筆者の借金返済シリーズの第2弾である。当初の計画では,第6回目に公開するとしていた。実は,日本プロジェクトマネジメント・フォーラム(JPMF)が9月2日に開いた「PMシンポジウム2003」における論文集に「プロジェクトマネジメントはなぜITで普及しないか」と題して寄稿をした。本稿はそれを加筆修整したものである。

(谷島 宣之=ビズテック局開発長)

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