「マネジメントとは、正しいことをするという意味である。これに対し、コントロールとは、ことを正しくするという意味であり、マネジメントとは違う。日本企業は一般に、コントロールについては卓越しているが、マネジメントの仕組みを真に確立しているとは言い難い。仕組みを確立するにあたっては、包括的なマネジメント体系を取り入れる必要がある。それがプロジェクトマネジメントである」。

 日本企業にとってプロジェクトマネジメントが必要な理由を、プロジェクトプロの峯本展夫代表はこう説明する。同氏は、プロジェクトマネジメント関連のコンサルティングや教育を手掛けている。この説明はプロジェクトマネジメントの必要性をうまく表現しているので、紹介した。

 「プロジェクトマネジメントがなぜ必要なのか」という問いに答えることは案外難しい。「これからはプロジェクト中心の時代になる。プロジェクトを成功させるためには体系が必要」と言えば、反対する人はいない。しかし異を唱えなくても、腹のなかでは今一つ納得していない。

 プロジェクトマネジメント体系は非常に広範囲なものだが、構成要素を見るとほとんどが紹介済みの手法である。体系の説明を受けたとき、ソフト開発のベテランは、「すべてやってきたことだ」とつぶやく。長年にわたって品質管理(QC)を実施してきた製造業であれば、「QCとどこが違うのか」と首をひねる。

 決定的な違いは、冒頭で紹介したマネジメントとコントロールの差である。品質管理の基本は、製品の欠陥数を一定値以下に抑えることにある。ソフトのバグを減らす活動も同じである。しかし、見事にコントロールし、目標数値を達成したとしても、その製品やソフトが市場や顧客に受け入れられなかったら、正しいことをしたとは言えない。

 正しいことをするには、何が正しいかを決めなければならない。プロジェクトマネジメントの体系を見ると、プロジェクトの計画を立てる前に戦略性を吟味し、実施すべきプロジェクトを選定せよ、と書いてある。つまり、「何のためにこのプロジェクトをやるのか」、「やることは正しいのか」を考え抜く。当然、この段階で経営者を交えた検討の場を設けることになる。

 これは日本企業が弱いところである。顧客の意図がはっきりしないまま、システム・インテグレータが開発を請け負い、納期と開発費については計画を守って、システムを納めたとする。しかし、ひょっとすると顧客に必要がないシステムを作ってしまったのかもしれない。

 プロジェクトマネジメントの体系によれば、プロジェクト選定を終えてから、詳細な実行計画を作る。必要な作業項目をすべて洗い出し、コストとスケジュールを見積もり、リスク要因と対策を検討する。それからようやくプロジェクトを始める。こうした入念な計画作りも、なかなか実施できないところである。

 本来なら、品質や環境のマネジメント規格であるISO9001やISO14001を取得している企業は、戦略から計画をたて実施する、という流れを確立しているはずだ。どちらの規格にも、まず方針を確立せよ、と明記してある。しかし実際には、方針が共有されず、現場がひたすら文書を作っているだけの企業が少なくない。つまりマネジメントの仕組みとしてはまだ定着してないわけだ。

 プロジェクトマネジメントも教科書通りにやろうとすると、相当量の文書が必要になる。真の狙いをはっきりさせて導入しないと、ISOの二の舞になる。

谷島 宣之=ビズテック局編集委員