筆者恒例の「読者の全意見に答える記者の眼」を書く。答えなければならない案件はたくさん溜まっている。今回は筆者の記事の中で昨年もっとも読まれた,「『動かないコンピュータ』とコンサルタントの関係」を取り上げる。この記事について読者から寄せられた意見のうち,公開可能なもの96件について返信を書いてみたい。

 その前に,書き込みをしてくださった読者に厚くお礼を申し上げる。はっきり言って,書き込みをしてくる読者の質は,IT Proが日本一ではないだろうか。いったん下書きをして推敲をしてから書き込んだと思える,質の高い意見が目白押しである。

 さらに今回は新企画として,一回分の記者の眼を書き上げるのに,どのくらいの時間がかかるかを計測してみたい。唐突だが,筆者は漫画が好きである。特に好きなあるギャグ漫画家の作品に,8ページの漫画を描き上げる間にその作者が吸ったタバコの本数を記録したものがあった。漫画の各コマの中に,描くときに吸ったタバコの本数が分かる絵が描いてあった。面白いというかなんというか,非常に印象に残った。

 文章でも同じ試みをやったみたいと思っていた。しかし筆者はタバコを吸わない。酒は好きだが,ちょっとでも飲むと文が書けない。そこで今回は,時間を記録してみることにした。一つ回答を書くたびに,時刻を記入していく。ここまで書いた段階で,1月24日金曜日の0時30分になった。真夜中である。まだ眠くはないが,念のためコーヒーを飲んだ。

 では返信の執筆を開始する。筆者の回答文は「である調」にした。なんだか偉そうな文になるが,ご了承いただきたい。回答文の冒頭に,その回答を書き始めた時刻を書くことにする。

 読者の意見は書き込まれた逆順に並んでいる。つまり先頭の意見が一番最近の書き込みである。順に答えていくので,多少の繰り返しはご容赦願いたい。読者の意見は,一部手直しさせていただいた。意見の先頭にあるのは,その意見が書き込まれた日付である。見出しは筆者が付けた。

(谷島 宣之=ビズテック局編集委員)

[2003/01/17] 依頼時の失敗を防ぐ
 私はコンサルティングを仕事としていますが,今回のコンサルタント批判には賛成です。もちろん,「コンサルタントが全員いい加減な訳ではない」と主張したいです。ですが,それ以上に自社の都合だけで,若くて高額フィーを要求するコンサルタントを送り込む会社が多くあるのは事実だと思います。コンサルティングを依頼する方は,ぜひ以下のことを実施して,失敗を防いで下さい。
1.提案に来た段階で,実際に担当するコンサルタントに会って話をする。
2.メンバーのすり替わりが発生し,役に立たない若手が来てしまったら,要望事項が対応されていない事実を出して,交替を要求する。遠慮しないで,どんどん要望し,ダメなコンサルタントは変える。
3.やりたいことを明確にして,できるだけ多く時間をとってコンサルタントに伝える。分かってくれているだろうと思い込まないこと。自社でやりたいことが明確にならず困っていれば,思うことをすべて言って相談すればいい。

0時40分:三つの提案はもっともなことばかりである。「当たり前ではないか」と思われる読者もあろう。しかし,意外にこうした基本的なことができない。システム開発を請け負うソフト会社に対しては,首実検,出欠確認,交代要求,値切り交渉をがんがんやる企業でも,なぜかコンサルティング会社には弱腰というか無抵抗になる。

[2002/12/26] システムは仮想社員,給料が必要
 30年以上,システムズ・エンジニア(SE),プロジェクトマネジャとしてやって来た現場の意見としては,「システム構築は業務改善の道具を構築するのであって,業務改善の真の目的ではない」という事です。業務改善を行うためには,業務フローの見直し,承認ルールの見直しなど,現場事務ルールの見直しが必要である。
 ところが資料のファイリング方法を替えるだけで効率改善できる物についてまで,コンピュータ化,システム化と言う経営陣の馬鹿の一つ覚えの旗振りの結果,ムダなシステム投資を行っている例が多い。このギャップ,隙間に上手く滑り込んで美味しい汁を吸っているのがコンサルタントである。
 システムは道具であり,それも生きている道具であり,飯も食えば休みも取る。システム開発費用を会社の平均賃金で割って出た数字を「仮想採用社員数」と考え,その仮想採用人員を今後5年間採用する事と,新システムの構築とは同じであることを経営者は肝に命ずる必要がある。

0時51分:「システムは仮想採用社員」という例えは非常に印象に残る。経営者に情報システムを説明するときに使える言い回しである。役立つ社員になるか,不良社員になるかは,経営者の腕次第というわけだ。ERPパッケージの導入に大量のコンサルタントを使って,100億円をかけた企業は,一人1000万円として,1000人を一気に雇用したことになる。これはもの凄い数字である。採用しすぎで,数年後に首切りをするのではないか。首切りとは,システムの廃棄という意味である。

[2002/12/06] 動かないシステムを作る三条件
 動かないシステムを作るには以下の三つの部分のどれか二つが必要だ。
1.中核メンバーがシステムへの責任感を無くす。
2.担当組織がきちんと機能していない。
3.人件費を安く済ませる。
 私は相異なる経験をした。一つはある企業のコンテンツ管理システムの基盤作りである。メンバーのスキル不足により,適当なテストで済ませ,あるストレージのテストが正確に行われなかった。これは,1と2の複合であり今後,そのシステムがどうなるか不安だ。多分,馬脚を顕わすであろう。
 一方,ある大規模システムでは,メンバーが仕様決めのときに大喧嘩ばかりしていたが,実はそれは熱意の表れであり,1と2がしっかりしていたため,結果として成功を治めた。この案件では確実に3にヒットしていたにもかかわらずである。コンサルティングを受ける時,システムを発注するとき,コンサルティング会社や営業の美辞麗句に躍らされるのではなく,コンサルティング部門としてのきちんとした組織と経験,幅広い視野を持つ部分に依頼する事が重要だ。

1時:1から3は,システム開発に限らず,あらゆるプロジェクトに共通する。しかし,3であっても,1と2があると乗り切れるというのは,日本ならではである。米国では3があると,コンサルタントは帰ってしまう。問題は,コンサルティング会社の良質な部分をどう見つけだすかであろう。

[2002/11/18] 丸投げは必ず失敗
 本質的な問題は,開発以降のフェーズだけをシステム・インテグレータに丸投げするというやり方だと思います。この記事で扱っているのはこういうケースだけですね。自分で作るつもりで,もしくは開発フェーズにも関わるつもりでデザインするのとそうでないのではどうしても品質に差はでます。それでも経験と責任感がしっかりしているコンサルタントなら,きちんとした仕様書までつくれるでしょう。
 しかし,開発は丸投げで,「後はよろしく」では,絶対に目論見どおりのシステムはできません。そもそものプロジェクトの意図やプライオリティ付けの根拠や,いろいろなこと,特に熱意が伝わりっこないです。というわけで,この記事は,そもそも失敗するべきやり方をしているプロジェクトについてのみ書いているので,自ずと内容も後ろ向きになっているというのが私の感想です。つまり,この記事のケースで失敗している原因は,『こうことがしたいから後はよろしく』という態度の経営者,システム部門,そしてコンサルタントという結論です。

1時7分:確かに読み直してみると,そもそも失敗するやり方のプロジェクトばかりであった。おっしゃる通り,自分のシステムなのであるから,人に丸投げはできない。ただ,いろいろ取材するとこうした,「最初から間違っているプロジェクト」にしばしばお目にかかる。いろいろやって動かなかったのではなく,計画がずさんでプロジェクトすら始まらなかったという事例である。

[2002/11/18] SEは文章力を磨け
 日経ビジネスの記事から来ました。コンサルタントのバインダーの中身には,そういうものも多い。でも,インテグレータやSEで,他人が読んで経営的に効果が上がると理解できる文章が書ける方,本当に少ないです。インテグレータ,SEの大きな欠点は,特に運用視点や経営視点でのプレゼンテーション力,文章力がないことです。
 「システムズ・エンジニアが世界を救う」という意見は賛成ですが,今の多数のSEは実現できないと思います。アタマで理解して分析できても,客に伝えて説得できなくて,何の価値があるのでしょうか。提案書,設計書に羅列される主語目的語のはっきりしない文章。運用や経営効果へつながる重要な仕様と,単なるプログラム上の仕様とを混在してわかりにくくしている姿勢。こうしたことを見るに,コンサルタントを雇わせているのはやはりSEかな,とため息しきりです。
 SEは,コンサルタントの質を云々する前に,まず自分の作文力・伝達力を検証し伸ばす努力をすべきです。その上で,本当の意味でのシステム化は何のためにするのか,客の目的に沿う回答を説明できるスキルを伸ばすことを考えるべきでしょう。

1時10分:日経ビジネスとあるのは,コンサルタント問題を日経ビジネスのWebサイトにも書いたからだ。残念ながら,SEの文章力に関する指摘は正しい。この方の指摘に付け加えるとすると,「英語あるいはカタカナの濫用」がある。いっそのこと,顧客の経営者に出す提案書は,縦書きにしたらよいかもしれない。英語を使いにくくなる。ただし冒頭に書いたように,IT Pro読者の文章力は非常に高いと思う。

1時15分:ここまで書いたところ,睡魔に襲われる。コーヒーの残りを飲む。

[2002/11/15] SEがコンサルティングに進出を
 たいへん興味深く読みました。弊社はソフトウェア・ベンダーです。ITコンサルティング分野に進出しようとしており,データ・モデルやプロセス・モデルをゴールとしたビジネス設計支援を行なっています。支援を実施したお客さまのほとんどが,コンサルティング会社への情報戦略策定を依頼した経験があり,お客さまに「その成果物は有効だったか」と問うと芳しい返答はありません。
 ある業務コンサルタントの方と同席する機会があり,面と向かって「私はSEという人種は嫌いだ。コンサルティング結果をシステムに反映できないからだ」と言われたことがあります。そのとき「コンサルタントが情報システムに歩み寄れないのであれば,システム屋がコンサルティングへ進出するしかない」と確信しました。どちらが先に戦略と導入システム間の乖離を埋める方法論を確立するかが勝負と考えます。

1時18分:筆者は,戦略立案を支援するコンサルタントは否定しない。あるべき理想像を描いてみることも必要と思うからだ。その戦略と現実にはえてしてギャップがある。ギャップがあまりにも大きい場合は,システム以前に,戦略を練り直さないといけない。

[2002/11/14] システムは価値を生まない
 全く同感です。もっと声を大にして言って頂きたいと思います。昨今はやりのシステムですが本来,会社の内部から構築されていくべきものであって,外部から受注するという感覚がおかしい。経営者に対して言いたいのは,「変わらなければ生き残れない」なんてマスコミのいう宣伝に踊らされないで欲しい。
 例えば年間何百億円もかかるシステムを入れることと,年俸二千万円の社員20人を雇うのと,そこから10年間立ったときどちらが本当に「価値」を産み出しているか。少し考えればわかるでしょう。システムはあくまでも「道具」であって価値は生み出さない。つまり経費は節減できても,売り上げは伸ばせないと言う事です。そこに経営者は気づかないといけません。物事の価値は本来「価格」で決定されます。最近は「価格」と「価値」が本当の意味でおかしい世の中だと言えるのではないでしょうか。

1時26分:世の中で,もっとも変わろうとしないのは,マスコミである。変わらないのになぜか生き残っている。しかしインターネットの登場により,マスコミの存在価値は大きく下がっている。いい加減に変わらないと危険と言える。自己宣伝をすると,なんとか今年後半には,「変わったメディア」を作りたい。

[2002/11/13] コンサルタントの名刺に注意
 数年前まではこの手の事例「ばかり」でした。今もこのようなケースは残念ながらありますが,少々趣が以前とは変わってきたと思っています。また,システムベンダーやメーカーが自社内の社員に「コンサルタント」の名刺を渡しているケースでの問題もあると思っています。

1時30分:趣がいいほうへ変わっていくことを期待する。また,自社内どころか,かき集めた協力会社のエンジニアにまで,自社のコンサルタントであるかのような名刺を持たせる企業もある。こうした企業が顧客から相手にされなくなることを期待する。

1時32分:ちょっとつらくなったので,立ち上がり,歯を磨きにいく。
(続く)

全文は以下のページでご覧ください。
第1部 ~1月24日1時32分(本記事)
第2部 1月24日1時26分~2時38分
第3部 1月24日2時45分~3時24分
第4部 1月24日8時20分~9時15分
第5部 1月24日11時10分~25日18時
第6部 1月25日19時~19時24分
第7部 1月25日22時42分~23時40分