経済産業省と電子商取引推進協議会(ECOM),アクセンチュア(日本事務所:東京都港区)が共同で実施した「電子商取引に関する市場規模調査」によれば,2000年のインターネットを利用した電子商取引(EC)市場は22兆4200万円。これが2005年には5.5倍の123兆9000万円になるという。
非常に大きな取引高で,「インターネットは一体何のためにあるのか」と問われたら,ためらいもなく「モノを売ったり買ったりするところだよ」と答えてしまうだろう。
しかし,1年ほど前にインターネットがそういうものだろうと期待し,あまたのドットコム企業に投資をした日米の何百万もの人々からは,違う答えが返ってくるかもしれない。「それは見当はずれ。インターネットは無一文になる恐ろしいところだよ」と。
2000年末における日米の消費者向けEC市場に関する調査データをみると,インターネットが商取引の場として定着するまでには,まだかなり時間がかかりそうである。その理由は,リピータが思ったほどいなかったり,使い勝手の面で工夫が不足しており,「一度は試してみるが・・・」程度の利用に,とどまっているとみられるからだ。
米Pew Internet American & Life Projectが,「休暇シーズンにインターネットをどのように使ったか」を電話調査した結果によると,驚くような答えが返っている。
インターネット利用者のうち53%が,休暇シーズンのあいだに親戚や家族・友人に電子メールを送って,休暇をどう過ごすかを話し合ったり,何をするかの計画を立てた。さらに,32%がインターネットでグリーティング・カードを出していた。つまり,コミュニケーションが主だったのだ。
ドットコム株で落ち込まず,懐が比較的温かいような人についていえば,インターネット利用者のうちギフトを買ったのは24%。何か良いギフトがないかを探した人が45%,WWWで価格の比較を行った人が32%だった。これに対し,実際に買う行為に及んだ人はかなり少数だ。もっとも,日経マーケット・アクセスが日本で行った調査の「歳末ギフトを電子商店で購入した」(13%),「インターネットでギフト情報を収集した」(35%)に比べると,米国民のインターネット・ショッピングの割合はずいぶん高い。
潜在的にみて,ドットコム企業にとって悪い兆候が出てきたのも昨年の歳末商戦。インターネット利用者の22%が,「99年の休暇シーズンではオンラインで買い物をしたが,2000年は止めた」と“クリック・オフ派”に回ったのだ。前出のPew Projectの調査によれば,転向したのは裕福で学歴もあるインターネット利用者だった。
米ガートナーの調査では,99年の歳末商戦でオンライン・ショッピングをした利用者の約50%が2000年には利用しなかった,とクリック・オフ派はさらに増える。ガートナー社は,リピータをつかまえられなかった機会損失を26億ドル,2000年シーズンの売り上げの43%に当たるとはじいた。
また米ボストン・コンサルティング・グループと米ハリス・インタラクティブの共同調査によると,商品をオンラインで購入しようとしたがうまくいかず,諦めた人が1600万人もいた。機会損失は15億ドルにのぼる。米ヤンキー・グループは,「ホリデー・シーズンの商品返品率は99年の2倍の20~30%。10億ドルを超えた」とした。実際の売上高も,多くの“オンライン商人”が期待していた99年の2倍をはるかに下回る55%増に止まった,と消費者調査会社の米ビズレイト・コムは発表した。
インターネット・ショッパーが減った理由について,米Pew Projectは以下を指摘する。つまり,現物を実際に目で見てみたい(85%)という希望と,クレジットカードやその他の個人的な情報をインターネットで流すことへの不安(75%)などだ。また半数が99年の経験からか「商品が予定通りに届かないだろう」と見透かしており,約半数が「実店舗でもっと安いバーゲン品を見つけた」と答えた。
「オンライン・ショッピングに欠けているのは社会との交わりと楽しさだ。モールには社交がある」---これがネガティブな反応が表面化した,一つの,そして根本的な要因かもしれない。
米Pew Projectは,「調査は,既に誰もが知っていることを示す結果になった」とし,「モノを買うのは,インターネットで起こっていることの氷山の一角でしかない。それはまた,実生活で起きていることのわずかでしかない」と締めくくった。年末におけるインターネット利用の結果をみるまでもなく,コミュニケーションはトランザクションよりも遙かに多い頻度で発生している。
(北川 賢一=日経システムプロバイダ主席編集委員)