欧州SAPのERP(統合基幹業務システム)パッケージを使って基幹系システムを構築している約2000社のユーザー企業が憂鬱な事態に直面している。あと7年のうちに必ず基幹系システムを刷新しなければならない「2025年問題」に直面しているからだ。それまでに、ユーザー企業は新製品である「S/4HANA」に移行するか、SAP製品の利用を止めて基幹系システムを再構築するか、決断しなければならない。SAPユーザーが今、何を考え、今後どうするべきか。関係者への取材を基に徹底検証する。

 2025年の標準サポートの終了に伴い、SAPのERPパッケージ「SAP ERP」や、ERPにSCM(サプライチェーン管理)やCRM(顧客関係管理)を加えた統合パッケージ「SAP Business Suite」のユーザーは基幹系の刷新を検討しなければならなくなっている(以下、SAP ERPとSAP Business Suiteを合わせて「SAP ERP」とする)。

 S/4HANAを新規導入した企業はあるものの、SAP ERPからS/4HANAに完全に移行した企業は日本にはないと言われている。移行プロジェクトを実施している企業が数社あるというのが現状だ。

 本来ならS/4HANAへの移行事例が増えて、ノウハウが貯まるまで様子見をしたいところ。残念ながら、その余裕はSAP ERPのユーザー企業にはなさそうだ。2025年に向けて2020年ごろからSAPコンサルタント不足が始まると言われており、自社の意向に沿ったプロジェクトを円滑に進めるためにも早めに方針を決める必要がある。

 今回はSAP ERPユーザーやパートナーへの取材から、S/4HANAへの移行を検討する際に考慮すべき代表的な疑問6つを解説する。

疑問1 S/4HANAはSAP ERPのバージョンアップ版ではない?

A:機能を継承した別製品と捉えるべき。動作基盤はインメモリーデータベース(DB)「HANA」、UI(ユーザーインタフェース)はHTML5ベース、など新たな技術を取り入れている。データテーブル構造が変わっているモジュールもある。

 S/4HANAは、SAPが2015年1月に発表した32年ぶりのERPの新製品である。特徴は動作するデータベースとして、SAPのHANAのみを採用していることだ。HANAはインメモリーDBを中核に、データ分析機能やアプリケーションの実行基盤などを備えたミドルウエアである。

 SAPのERPはこれまで、米オラクル(Oracle)の「Oracle Database」や米マイクロソフト(Microsoft)の「SQL Server」などSAP以外のDBも利用できた。

 「リアルタイムに業務データを処理して活用するコンセプトはSAP ERPもS/4HANAも同じ。基盤にHANAを採用したことで、よりリアルタイムに近い処理を実現できるようになった」とSAPジャパンの上硲優子 ソリューション統括本部 デジタル・アプリケーション第2部グループリーダーは説明する。

 HANAを使ったメリットは他にもある。メモリーで高速に処理できるため、S/4HANAは「データのシンプル化やバッチ処理の削減などを実施している」(上硲氏)。SAP ERPで約30あった在庫管理関連のテーブルを1つに集約したのが一例だ。ERPで蓄積した明細データをそのまま分析データとして利用できるので、DWH(データ・ウエアハウス)の構築なども不要という。

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