ありきたりの観光ツアーではつまらない。日本人に混ざって、日本人と同じ体験、自分だけの体験をしたい――。こんな訪日外国人の期待を背景に注目度が高まっているのが、「シェアリングエコノミー」だ。

 主役は企業ではなく個人。一般の消費者が持つモノやスキル、知識を、インターネットを介して貸し借りする。

 訪日外国人向けのシェアリングサービスの代表例が「Airbnb(エアビーアンドビー)」。個人の自宅を宿泊施設として貸し出す、米国発の民泊サービスだ。

写真A Airbnbを使い民家に泊まる訪日観光客が急増。右は同社のサイト画面
写真A Airbnbを使い民家に泊まる訪日観光客が急増。右は同社のサイト画面
[画像のクリックで拡大表示]

お墓に衝撃、別れ際に「仏花」

 Airbnbを2013年から利用して自宅を貸し出している島崎夢さんは、「地元の人と同じ生活をしたいという訪日外国人が増えていると感じる」と話す。島崎さんは毎月3~4組の訪日外国人を受け入れている。

 島崎さんはもう一つ、日本のベンチャー企業Huber.(ハバー、神奈川県鎌倉市)が運営する観光案内サービスも利用している。観光案内役の一般消費者と訪日外国人をマッチングするというものだ。

 島崎さんは宿泊はAirbnb、観光はHuber.と、両方のサービスを併用して訪日外国人を「おもてなし」している。宿泊用途には自身がAirbnbに家主(ホスト)として登録して自宅を貸し出し。観光用途には宿泊客(ゲスト)にHuber.を紹介して、Huber.に登録している観光案内役の日本人と外国人ゲストを橋渡しする。

 最近もオーストラリアからの訪日客に、宿泊と観光を合わせて提供したばかりだ。ゲストは神奈川県鎌倉市の町並みを観光し、「お墓の線香やお供え物を見て衝撃を受けたと、興奮していた」(島崎さん)。

 このゲストが、帰国する際に島崎さんへ手渡したのが、お供え物と同様の仏花。お墓の「観光体験」が、よほど印象深かったようだ。

 「Airbnbのホストが面倒をみられるのは、宿泊施設の提供まで。ゲストは当然、観光を希望するが、全てをAirbnbホストがアレンジするのは時間と手間がかかりすぎる。Huber.との組み合わせで、うまく役割を分担できる」(島崎さん)。

友達と遊ぶような体験を

 Huber.の観光マッチングサービスは、この2月に試験的に始まったばかり。6月にも正式サービスを始める。

 「友達と遊ぶように一緒になって楽しむ体験を提供する」。Huber.の紀陸武史社長は、サービスの特徴をこう語る。水族館に行って食事する、鉄道のガード下にある飲み屋街を散策するといったものから、日本の若年層に人気が高まっている「自宅タコ焼きパーティー」に外国人を招くものまである。

 観光メニューはガイドが考案してサイトに掲載。値段も付けて「販売」する。

 ガイドに立候補しているのは東京都や神奈川県の大学生が中心だ。共通点は「国際交流を強く望んでいる」人たちであることだ。旅行会社のプロではないだけに、登録されている観光メニューも友人同士の小旅行といった趣。それがかえって等身大の日本を感じたいという外国人に受けているようだ。

(左)写真B 日本人の生活を実体験できるHuber. (右)写真C Airbnb Japanの田邉泰行代表取締役
(左)写真B 日本人の生活を実体験できるHuber. (右)写真C Airbnb Japanの田邉泰行代表取締役
[画像のクリックで拡大表示]

 シェアリングサービスを活用して日本での体験を楽しむ訪日外国人は急増している。Airbnb Japan(東京・品川)代表取締役の田邉泰之氏は「2015年のインバウンドゲスト(日本以外に在住し、日本で宿泊した人)は前年比521%」と話す。

 これを迎える国内の物件登録件数は約2万6000件。「60歳以上のホストの数が増えている」(田邉氏)。例えば岡山では、今まで外国人観光客がほとんど来なかった場所に1件物件ができたことがきっかけで、地域に「おもてなし隊」ができた事例があるという。

 ホストとゲストのマッチングを最適化するため、Airbnbでは独自に開発したアルゴリズムを使ってマッチング成約の可能性を算出している。ホストが「宿泊可能」としている時期や、これまで受け入れてきたゲストの属性や人数などのデータを解析し、ゲストのタイプによる成約確率を算出し、上位からサイトに表示する。

 一方でシェアリングエコノミーには、既存の法規制に沿っていないなどの問題点もある。Airbnbに関して言えば、日本の旅館業法に沿っておらず、まだ法的にはグレーなサービスだ。民泊を認めていないマンションの一室をオーナーが貸し出したり、ゲストがゴミ出しのルールを守らなかったりして、近隣住民とトラブルになるケースもある。

 法規制の枠を超えて民泊が広がっている現実を前に、政府も規制緩和に動く。東京都大田区や大阪府が特区制度を導入。厚生労働省などでも法改正を議論している。

 Airbnb Japanの田邉氏は、「シェアリングエコノミーへの理解を得るため、政府の議論に協力している」と話す。内閣府が運営する規制改革会議にも参加している。