私は一時金融事業部に在籍し、主として金融系のWebサイトのデザインコンサルタントやサイト制作を担当していた。2000年代前半のことで、まだまだデジタルマーケティングに至る前のいわゆる情報提供が主となるホームページの時代だ。ただ、当時からお客さま経験価値(以下UX)を主として考え、それをサイトデザインに反映し、UXを追求していた。その後、研究開発部門でシステムのユーザビリティやGUIなどを掘り下げ、マーケティング部門への異動となった。常にお客さま視点を意識して、現職場ではデジタルマーケティングを推し進めてきたにもかかわらず、どうも業種によってUXへのアプローチが違うのではないかという疑問が常々あった。そこで今回は、日立システムズ社内関連部署へのヒアリングを元に業種での違いを浮き彫りにし、それぞれでのUXアプローチについて考えてみた。

自治体系のUX:住民を待たせない、たらい回しにしない

 自治体の業務も多く請け負っている当社では、マイナンバー制度の導入により、一大変革期を迎えている。このマイナンバー制度は、単に自治体だけでなく一般の企業でもその対応を迫られており、来年から逐次制度の導入が進んでいく予定だ。私自身も過去に何度も自治体に足を運んでいるが、ライフイベントの際はとにかく公私共に忙しい。そんな中で、証明書の発行や各種届け出などの手続きは、できるだけ簡略化したいのは誰でも同じだろう。自治体サービスのUXは、まさに「待ち時間を減らす」「たらい回しにしない」の解決の歴史だったといえる。その途上では、住基カードやコンビニ交付サービスなどが登場した。住基カードは発行に手数料がかかるうえ、効果と照らし合わせた結果、残念ながら活用されているとはいいがたいが、今回のマイナンバー制度は、個人番号カードの発行が全国統一で無料。また、現在利用されているコンビニ交付サービスは画期的で、本庁で例えば300円で発行される証明書が250円の自治体などもある。こちらについては時間的にも金銭的にもユーザー視点に立っているので有効活用されているが、マイナンバー制度導入で、さらに進化の可能性を感じる。また、市民への窓口間における複数サービスの、導線の整理やレイアウト変更、庁舎建て替えの際には総合窓口を設け一本化するなど、自治体単位では大変な苦労を伴い、UX視点での住民サービスの向上に努力しているが、今後はこれら多くの課題がマイナンバー制度の導入により解消されるだろう。

 さて今後の自治体UXはどう変わるか。一言でいえばネット自治体、バーチャル自治体になるだろう。庁舎に足を運ぶという機会は激減し、マイナンバー制度の共通基盤上で届け出や証明書発行、決済などが進み、明らかに住民の作業も減る。さらにその先は、出産や入学、進学や引っ越し、就職や結婚、定年などのライフイベントが自動登録され、各種届け出や証明書の発行自体も無用になる時代が到来するかもしれない。本来UXは課題解決のプロセスで有効だが、究極は課題がないということだ。

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