前回はIoT(Internet of Things / モノのインターネット)をテーマにし、思いがけず大きな反響をいただいた。そこで今回は、ミクロには要素としてのM2Mを、またマクロにはビッグデータ全体の概念などを捉え、それらがどのような形でUXマーケティングにインパクトを与えるか…という視点で考えてみた。
マーケティングにデータは不可欠
ずいぶん前になるが、80年代後半、私は日立製作所での米国の駐在時代にマーケティング部門に所属し、現地向けのテレビデザインを担当していた。当時はメキシコのティワナに現地生産の工場があり、26インチクラスの大型ブラウン管テレビや、背面から投射するリヤプロジェクションテレビなどを生産していた。当時の米国のインテリア事情では、テレビは家具の一部として扱われており、テレビデザイナーにインテリアへの深い理解があれば、そのまま売れ行きに直結するといっても過言ではなかった。そこで、私たちはお客さまの住宅を訪問し、写真を撮り、間取りを計測し、インテリアの色彩や柄などの嗜好(しこう)を確認し、それら物理データと年収や家族構成などのデモグラフィックデータとを掛け合わせ、マーケティング基礎データとして、次年度の商品計画に生かしていた。
過去データだけではUXは向上しない
テレビが薄型になり、その家具志向も今は消えて、すべてがモダンデザインになってしまったが、当時はモダンとは別にウルトラモダンがあり、突出した現代彫刻的なテレビがある一方で、フレンチプロビンシャルやスパニッシュコロニアルなどの家具様式をそのままテレビに取り込み、扉まで付けて販売し、消費者の期待に応えていた。マスプロダクションとは呼べない数量だったが、それでも様式デザインを導入した効果は大きく、今でいえば「顧客経験価値を高めるUXマーケティング」が販売に寄与していたと記憶している。その意味で、マーケティングはそもそもデータドリブンだが、最近は単に過去のデータを蓄積・分析するだけでは、その役目を果たさなくなった。