「我が社の新技術は革新的です!」「他に比類なき画期的な技術です!」。技術系企業の自信に満ちた言葉を、幾度となく耳にしてきた。その度に、日本という技術立国を支える人たちのプライドと熱い思いを頼もしく感じる。しかし一方では、技術系コンサルタントとして、「もっと俯瞰的な視野を持つべきですよ」と心の中でつぶやかざるを得ないことに歯がゆさもある。なぜ自社の新技術を過大評価してしまうケースが多いのだろうか。

「自社の技術に競合はない」という幻想

 ここ十年ほど、私は自治体など公的機関の委託を受け、企業の研究開発を支援する補助金に関する審査委員会のメンバーになっている。また一時期、政府系金融機関の評価委員を委託され、新規投資案件の評価を行っていた。

 これらの業務は、応募企業の事業計画書に目を通すのが第一段階。そして最終選考に残った候補技術については、審査会で応募企業の代表者にプレゼンテーションをしていただき、その場で様々な角度からの疑問を投げかける。冒頭に挙げた「我が社の新技術は革新的!」などの台詞をよく耳にするのは、こうした場でのことだ。

 「ふむふむ、なるほど・・・・・・」とばかり、ただにこやかにほほえんで聞いていればいいのかもしれないが、技術系コンサルタントとしての責任感、使命感とでも言うべきか、つい多少の意地悪を言ってしまうことが多い。これまでの業務で培った知識、知見という名の“データベース”から、ある種の技術シーズを引っ張り出し、プレゼンの場でこう質問してしまうのだ。

 「○○社の××という技術は、最終的に御社が狙うマーケットで競合しませんか」

 「冷や水」を浴びせられたプレゼンターは、多くの場合、えも言われぬ困惑の表情を浮かべる。私がその場で紹介する技術は、一見、補助金の審査対象となっている技術とは異質のものが多い。しかし、その技術がゴールとなる製品へと結実するプロセスを思い描いてみれば、それが何らかの形で競合する技術だとすぐに分かるからだ。

技術者・研究者が陥りやすい視野狭窄

 このような場での質疑応答を幾度となく重ねるうちに、「自社の技術に競合はない」と考えがちな企業には、以下のような共通の傾向があることに気がついた。

(1)自らの技術シーズに並々ならぬ自信(自負心)を持っている
(2)特許を申請、取得している
(3)情報発信には積極的だが、情報収集には消極的
(4)協業、チームという発想に乏しい

 (1)に関して言えば、確かにある意味「競合はない」という技術もある。ただし、それには同じ業種業界、大学・研究機関なら同じ学会(学界)という前提条件が付く。つまり、競合技術の探索が、普段見聞きしている範囲に留まっているのだ。

 「新技術を製品化する」という一連のビジネス行為は、一定の限られた業界や学会内で単に新しい開発技術の優劣を競うこととはまったく違う。それゆえにこの種の視野狭窄は、ビジネスのレースにおいては避けるべき「独善」と言えるだろう。

 一例を挙げてみよう。天ぷら廃油で自動車を走らせるという技術シーズが、ある大学の化学系研究室にあった。しかし、別の研究者はバイオテクノロジーの分野で同様のアプローチをしていた。同じゴールを目指して「競合技術」の開発に努めていた研究者がいたのに、所属する学会が異なっていたため、その存在に気がつかなかったのだ。IT系でも、同様のケースは多い。

 一見異なる基礎的な技術シーズ(基礎研究)でも、ほんの少し発想を転換して応用すれば、製品化のプロセス全体を通して考えたときに「競合する」と見なすべき技術は多い。この「応用展開」という発想が乏しいほど「競合技術はない」と思い込みがちだ。

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