MA(マーケティングオートメーション)やSFA(セールスフォースオートメーション)が生まれ、最も普及している米国と日本の違いを3回シリーズで説明しています。第1回の「意思決定プロセス」、第2回目の「法律」に続いて、今回は「データマネジメント」の違いについて書こうと思います。

 言うまでもなくデータベースマーケティングとは、正しく管理された「洗練されたデータベース」がなければ実現できません。日本のBtoB営業はリードデータを収集してから案件化するまでと、案件化してから受注になるまでのそれぞれのリードタイムが長いという特徴があります。この事は欧米よりも長期間にわたってデータを保持する必要があるということですから、データマネジメントは極めて重要な要素なのです。

 MA各社が米国での製品リリース後、10年近くも日本市場に参入しなかった理由のひとつが、この「データマネジメント」です。日本語データのマネジメントが難し過ぎてダブルバイト化や言語ローカライズだけでは対応できなかったのです。

 マーケティング関係のソリューションとしてはメール配信システムの最大手だった米国のダブルクリック社が、1997年に日本法人を作ってビジネスを展開しています。大量メールを高速で配信したい企業は同社のダートメールを採用しました。ではなぜメール配信なら問題なかったデータマネジメントがMAでは問題なのでしょうか?

 メール配信は、配信のタイミングで1つのメールアドレスに1通しか出さない、という制御ができれば重複配信は起こりませんし、もし配信拒否をされたらそのメールアドレスにフラグ処理をしておけば、配信を止めることができます。つまり出口さえ制御できれば事故を起こさずに運用できるのです。

 一方、MAの肝は「スコアリング(点付け)」です。オンライン、オフラインの行動解析、企業属性などをクロスさせて点を付け(スコアリング)、有望見込み顧客を見つけることを求められます。行動解析からスコアリングを行うにはデータベースの中の人はユニークになっている必要があります。もし同じ人が4人登録されていたら、本来10点のこの人が、1人の4点と3人の2点になってしまうかも知れません。5点以上を有望と判定しコールすると設計した場合、しきい値の倍のスコアを持つこの人は有望にはならないので、コールリストに入ることはないのです。これを正しくスコアリングするためにはデータベースの中に同じ人が複数存在してはいけないし、同じ会社が複数存在してはいけないのです。

 全社に分散している個人情報を収集して統合すると、同じ会社が複数存在し、同じ人が複数存在します。これをまとめることを「名寄せ」、または「マージ」と言います。あまり知られていませんが日本のデータの名寄せの難易度は世界でも類がないほどです。その原因のひとつは「表記の揺れ」と呼ばれるものです。

 日本電気は、国内では知らない人がいない超有名ブランドですが、同時に日本で最もシンプルな社名のひとつでもあります。あるクライアント企業のデータの名寄せで実際に経験したことですが、IT企業に対してサービス提供していたその企業の約3万人の顧客・見込み顧客データの中に日本電気の社員が300人ほどいました。その大半はセミナーやイベントへの参加申し込みなどで本人がWebから登録したデータか、名刺交換をした営業が入力したものです。この300人の方の登録情報の会社名が40パターン以上あるのです。実は最も少なかったのは「日本電気株式会社」という正式名称でした。圧倒的に多くの方が「NEC」と登録していますが、これも全角・半角、大文字・小文字、そのミックスもあれば、カタカナ表記での「エヌイーシー」もあります。これらのほかに、「日電」もあり、さらにアルファベットにNECと書き、その後ろに株式会社と書いたり(株)と書いたり、さらにこの中のどこかに中黒(・)を入れたりします。これらをすべて日本電気株式会社に変換しないと企業の名寄せはできないのです。最もシンプルな社名の日本電気がこれですから、他の企業がどれほどの表記揺れをするか想像がつくと思います。

 MAやCRMの導入プロジェクトで、情報システムの担当者から「企業の名称や住所の表記を正規化してほしい」と依頼されることがあります。この「正規化」も日本ではお勧めできません。日本の法律では正規とは法務局に届けた登記簿の記載情報になります。登記簿謄本をご覧になれば判りますが、多くの企業の住所表記は名刺とは違う書き方で登記されています。例えば私の名刺には会社の住所が「東京都中央区日本橋本町3-4-7」と印刷してあります。しかし登記簿には「東京都中央区日本橋本町三丁目4番7号」となっています。正規と言えばこちらになるのです。もっと古い企業であれば「三丁目」は「参丁目」かも知れません。しかし、データベースの社名をこれにそろえるのは混乱を招くだけなのです。

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