データベースマーケティングを行うには「データ」が必要です。そのデータを収集するプロセスをリードジェネレーションと呼びますが、最も手っ取り早く、安いコストで一度に大量に収集できるのは「社内名刺の収集」です。でもこれが意外に難行苦行なのです。そこで今回は、この社内で眠っている名刺のポテンシャルの話をしようと思います。

 私の会社は「デマンドセンター」と呼ばれるBtoBマーケティングのアウトソーシングサービスを提供しています。もう少し具体的に言うなら、顧客企業が過去の営業行為で収集した見込み客データの「整理」と「啓蒙・育成」と「絞り込み」をクライアントと一緒に行うサービスです。では、過去の営業行為とは何でしょう?日本には世界有数の厳しさを持つ個人情報保護法があって実質的に個人情報を購入することはできません。ですから基本的には「展示会」「セミナー」「営業やエンジニアの名刺交換」「Webからの登録」の4チャネルでの収集になります。SFAやCRM、販売管理システムなどに入っていたデータもありますが、これらのデータも元は交換した名刺の場合が多いので「営業やエンジニアの名刺交換」に含めることとし、展示会とセミナーを「イベント」で括ればリソースは3チャネルということになります。

案件化数の1位は営業名刺

 この3チャネルで収集した顧客・見込み客データを「リードデータ」と呼び、データベース化して管理する訳ですが、その中から創出した案件の数でこの3チャネルを比較すると、多くの場合結果は以下のようになります。

• 1位:営業やエンジニアの名刺交換
• 2位:イベント(展示会やセミナー)で収集した名刺
• 3位:Webからの登録で収集したリスト

 実は案件化「率」で比較するとWebからの登録データが1位になる企業もあるのですが、日本ではオンラインだけでは必要な「数」が確保できないケースが多いのです。我々マーケターがこだわるクリック率やその他のコンバージョン率などの「率」という指標はマーケターがベンチマークに使うものであって、実際に案件をフォローする営業や販売代理店にはほとんど関係ありません。彼らが欲しいのは「質の良い案件数」なのです。

 さらに日本市場の特徴として、案件単価が高いものはWebからリードを獲得しにくい、という傾向があります。ここで言う「案件単価」とは製品単価ではなく、商談単位の単価のことで、例えばネジのような1個単価の安いものでも、ある機械の設計スペックに採用されると年間で600万円の商談になる場合、この案件単価を600万円でシミュレーションします。なぜなら商談時の価格交渉などはこの600万円という年間の取引金額に対して行われるからです。そして私の経験では、数万円から数十万円の案件単価の商材であればWebでもリード情報を収集できるかも知れませんが、1件あたり数百万円から数千万円の高額商材の場合、Webからの収集数は金額に反比例して低下します。数千万円の工作機械の情報をオンラインから取得しようとは思わないようです。

名刺の収集は大騒ぎ

 ところが、この案件数ナンバー1のポテンシャルに溢れた社内の名刺データを収集することは簡単ではありません。日本には未だ名刺は個人の資産であるかのような勘違いがまかり通っている企業が多く、コピーを取らせて欲しいと依頼しただけで「俺の名刺に何をする?」と怒り出す人もいます。展示会で収集した名刺も、その展示会の費用を負担した事業部の管理になっている場合が多く、容易にコピーさせてくれませんし、展示会を広報部門が主管している場合だと、「ブランドを傷つける可能性があるので配信するメールのサンプルを見せてくれないと渡せません」などと言われます。

 マーケティングを強化しようとした企業の担当者が最初に苦労するのは「社内の名刺データの収集」と言われるほどなのです。もちろん今では名刺は企業が管理すべき企業の資産であり個人の所有ではないことは明確になりました。さらに2009年に大きな改正をした「特定電子メール法」によって、名刺自体を書面による許諾と解釈し、パーミッションの必要のなくメール配信できる、と定義されました。しかし、それを活用するには営業やエンジニアのデスクの引き出しにある名刺や、事業部や広報のファイルサーバに点在するデータを全部コピーさせてもらい、紙のものはデジタル化してデータベースに入力し、マージ(名寄せ)&パージ(競合・営業対象外の削除)を行い、さらに企業とそこに所属する個人という紐付けを行って、はじめてマーケティングに利用できる状態になるのです。

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