「Account Based Marketing (以下ABM )」という言葉をご存知でしょうか?
数年前から米国のBtoBマーケティングでキーワードとして使われ出した言葉で、日本でも今後必ず使われるようになる言葉です。

 ABMは、先ず自社の製品やサービスのターゲット企業(以下アカウント)を明確に定義します。これはマーケティングで最も基本的なフレームワーク「STP」の「T(Targeting)」に該当しますが、異なるところは定義する対象が「市場」ではなく「企業(アカウント)」というところです。ABMがマーケティングではなくセールスサイドで語られてきたのは、こうした基本的な視点が異なるからでしょう。ターゲットアカウントを定義したら、マーケティング、セールス、サポート、そして経営幹部までがデータを共有し、力を合わせてアカウントの解決すべき課題や、本人たちがいまだ気がついていない潜在ニーズなどを察知し、その課題やニーズに対して全社が連携してアプローチする、という戦略的な手法です。

 こう書くと、「ABMってとっても当たり前のことですが……」となるかもしれません。確かに新しい概念ではありませんし、米国でも古くから法人営業の行動規範として存在した考え方でした。顧客情報をしっかり収集・分析して提案の精度を高めることはセールスの基礎トレーニングで必ず学習することですし、訪問を予定している企業の四季報やWebで最近のトピックや業績をチェックするのは当然のことです。セールスだけでなくマーケティングでも企業の属性情報の重要性は古くから指摘されています。

 その新しくない概念がこの2~3年で米国のマーケティングカンファレンスや関連メディアなどで再ブレークした理由は「テクノロジー」です。ABMは概念としては存在しても、それを支援するテクノロジーが存在しなかったので実現することはできませんでした。ABMを実現するためには、企業内で部門を超えたデータ連携と高度な管理が必要になります。また、ターゲット企業にアプローチするには、「良質なコンテンツを」「必要な人に」「必要なタイミングで」「必要なだけ」届ける必要があります。

 しかし、そのために必要な「データとコンテンツを統合管理するプラットフォーム」も「組織」も存在しなかったのです。それを実現したプラットフォームが2000年代に急速に普及が進んだマーケティングオートメーション(Marketing Automation : MA )であり、組織がデマンドセンターなのです。

 ある「A」という製品のターゲット市場から、ターゲットアカウント(企業)を200社に絞ったとします。その中にはいくつかのグループが存在します。

1. 既存顧客
何かの商材ですでに取り引きがあり、口座を開いており、担当が毎月訪問している企業です。顧客の担当者とは一定の信頼関係を築いています。しかし、「A」を買ってくれてはいません。あるいは特定の事業所でしか使っていません。

2. 過去客
過去には取り引きがありましたが、何らかの理由で競合にスイッチされてしまい、今は取り引きがない企業です。こうした企業を競合から奪い返すことは市場で戦う上でとても重要なことです。

3. 新規顧客
いまだ取り引きのない企業です。ここに採用してもらうことは社内でも業界内でも最もインパクトがありますが、最も攻略するのが難しいターゲットでもあります。

 この3種類の混在したターゲット企業200社に関するさまざまなデータは、多くの場合すでに社内に多様なフォーマットで存在しています。

 営業やエンジニアが過去の交換によって獲得した名刺、展示会やセミナーなどで収集したアンケートや名刺、Webでの資料請求やメールマガジン登録などで自ら登録してくれたデータ、経営者同士の懇談会などのリストや名簿、ユーザー会のリストや参加履歴、基幹システムに保管してある購買履歴などの取り引き実績データ、SFAにある営業の対応データ、業務日報にある訪問や商談の記録、そして与信管理のために購入した企業属性情報、ターゲット企業が上場企業であればWebのIRで告知される中期経営計画なども重要な情報です。

 こうした社内の多くの部署にバラバラのフォーマットで保管されていたデータを収集し、整理して関連付け、ターゲットアカウント(対象企業)に対して、「A」という製品のバリューを伝えるためにしっかりと準備されたコンテンツでキャンペーンを実施し、その行動と属性情報でスコア(点付け)してターゲット企業の中で「今アプローチすべき人」を特定し、そのリストを営業に供給できるようになりました。データとコンテンツを統合してハンドリングするデマンドセンターを構築すれば、ここがコントロールタワーになってABMが実現できるようになったのです。

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