SFA(Sales Force Automation)を導入しても期待通りに営業の生産性が上がらない、あるいは正反対に売り上げを落としてしまうメカニズムと、その対応策を説明しましょう。

 前回説明したデマンドジェネレーションの仕組みを構築し、案件を営業や代理店に安定供給できるようになると、その案件の行方が知りたくなるものです。訪問してくれたのか、その訪問はどうだったのか?案件化したのか?案件はどのくらいの商談サイズなのか、そして受注に至ったか失注だったのか・・・、こうしたことを可視化しようと思えばSFAを導入する以外にありません。どの案件が今どのステータスなのかを社内で情報共有する手段は、SFAで案件管理をするのが最も確かな方法だからです。

 しかし、実際にSFAを導入した企業の担当者と話しているとこんなぼやきを聞くことが多いのです。

 「そもそもウチの営業はフィードバックのルールを守ってくれません」
 「企業名や氏名などの入力ルールを守ってくれない」
 「事業部によって運用ルールがバラバラで全社のインフラになりません」
 「案件ステータスの定義が曖昧なので、同じ案件が人によって4だったり3だったりする」
 「社名を略式表記で入力するので後で名寄せに非常に苦労してます」

 こんな風にぼやいているSFA導入の主担当が情報システム部門や経営企画部門だった場合、このぼやきはやがて部門間の争いに発展します。経営幹部からすれば、案件を可視化し、売り上げを向上させる目的が達成できませんから、担当者は当然叱責され、これが導入主管の部門と営業部門で責任のなすりあいに発展するのです。私も、SFAの運用コンサルティングの中で両部門の喧嘩の仲裁をした経験を数え切れないほど持っています。

 では、フィードバックのルールを厳しくして罰則を設ければうまくいくのでしょうか? 私は、これは非常に危険だと考えています。

 例えば、ある企業では営業1人がSFAの入力に毎日1時間を使っていたとします。21営業日として月に21時間、年間で252時間、この事業部に営業が40人在籍していれば年間約10,000時間をSFAの入力に割いている計算になります。これはこの40人の営業チームの丸々5人分の年間労働時間に該当します。もしフィードバックに2時間も掛かるような項目を設定すれば、売上げ予算を減らさない限り営業から反乱が起きても不思議ではないのです。

 私は、こうした問題を解決するポイントを探っているうちに、1990年代中頃に『営業のコアタイム』というキーワードに着目しました。

 『営業のコアタイム』の定義は「顧客と会っている時間」「顧客と電話している時間」「顧客にメールを書いている時間」など「直接顧客とコンタクトしている時間」です。BtoB企業では、この『営業のコアタイム』と売上げは最も強い相関を持っており、極論すれば単純相関で正比例の関係にあることも珍しくないのです。

 その理由は、もしその営業が顧客との信頼関係を築けていなければ長時間会ってはくれませんし、その顧客企業内に潜在的であれ、製品やサービスに対するニーズがなければ、情報収集活動をしませんから電話での会話も短く、たとえ会ってくれたとしても短時間の面談で終わるはずだからです。

 次に、『営業のコアタイム』以外の時間をすべて『営業のノンコアタイム』と定義しました。訪問先への移動時間、提案書や見積作成などのデスクワーク、社内調整、社内会議などで、もちろんSFAへの入力時間も代表的な「ノンコアタイム」になります。

 私の経験では、これら「ノンコアタイム」は、売上げとの相関関係はほとんどないのです。営業会議の長い会社が売れているという例を聞いたことがありませんし、たくさん見積を書けば売れるわけでもありません。いつも忙しそうにしている割に成績の良くない営業の一日は、ほぼ「ノンコアタイム」に塗りつぶされています。顧客より社内調整や会議の準備に多くの時間を使っていることが多く、顧客との信頼関係も弱いので訪問時間も短く、アポイントの段取りも悪いのでたった2件の訪問の移動時間に途方もない時間を使い、日本は電車や地下鉄の中で仕事をするのは難しい環境なので、事務仕事も溜まって残業が多くなる、という構図です。

この先は日経クロステック Active会員の登録が必要です

日経クロステック Activeは、IT/製造/建設各分野にかかわる企業向け製品・サービスについて、選択や導入を支援する情報サイトです。製品・サービス情報、導入事例などのコンテンツを多数掲載しています。初めてご覧になる際には、会員登録(無料)をお願いいたします。