前回はMAの歴史、ルーツごとのカテゴリーとその特徴を説明しました。今回は、最初からMAとして設計・開発されたものを中心に見ていきましょう。
カナダのトロントでチャットシステムを開発していたSteven Woods（スティーブン・ウッズ）を中心とするメンバーが1999年に新たに起こした会社であるEloqua（エロクア）は、マルチコンタクトポイントのマーケティングプラットホームとしての製品を2000年に発表しました。
この新しいカテゴリーは、既に普及していたSFAの欠点を補うものとして注目され、米国の調査会社が発表する年平均成長率（CAGR）などで非常に高い成長を予測され、Eloquaはそのカテゴリーのトップランナーと見なされました。そのお陰で、製品発表後すぐに大手ベンチャーキャピタルから約20億円の資金を獲得することに成功したのです。しかし、これが経営陣への大きな圧力になってしまいました。新しいカテゴリーや革新的な製品は話題になってから実際にユーザーが契約するようになるまでにタイムラグがあるものです。MAも話題だけが先行した時間が長く、しかも話だけは非常に盛り上がったので競合が雨後の筍のように出てきてしまいました。
こうした状況の中で2007年に投資家による大鉈が振るわれ、CTOのSteven Woodsや2000年からジョインしたPaul Teshima（ポール・テシマ）を除く経営陣が一掃され、新たにMicroStrategy （マイクロストラテジー）や VeriSign（べリサイン）で経営幹部を経験したJoe Payne（ジョー・ペイン）をCEOに、大手調査会社Forrester Research（フォレスターリサーチ）でCMOを勤めていたBrian Kardon（ブライアン・カルドン）をCMOとして迎え、再出発したのです。同時に彼らは後発の競合と差別化する意味で、エンタープライズ向けのグローバルマーケティングプラットホームへのフォーカスを鮮明にしました。この戦略と新たに調達した資金によって「最初のMA」だけでなく、「最も高機能なハイエンドMA」のポジションも獲得したのです。米国に本社を置きグローバルに展開しているIT企業にEloquaユーザーが多いのはこれが理由です。
このポジションは、EloquaがIPOを果たした後にOracleに買収され、マーケティングクラウドとして統合された2015年現在でも維持されています。また、CTOのSteven Woodsが2010年に上梓した著書の中で提唱した「Digital Body Language」は、それ以降のマーケティング業界で流行語にもなっています。
その一方で、2005年頃から、米国の中堅企業を中心に、「あそこ（Eloqua）までの高機能はいらない」、「もっと簡単に使いたい」、「全社ではなく事業部単位で導入したい」、「米国内だけで使いたい」、「もっと安いMAはないかな？」というニーズを持つ潜在市場が大きくなってきました。米国といえどもマーケティングチームにITリテラシーが高い人材を持っていない企業もありますから、難しい操作を強いられるツールは使いきれないというニーズもありました。
この市場に目をつけたのが当時CRMでは大手のEpiphany（イピファニー）にいたPhil Fernandez（フィル・フェルナンデス）でした。彼は2006年にEpiphanyの同僚たちとサンフランシスコ郊外のサン・マテオに新しい会社を設立し、この魅力的な市場に最適化した製品をリリースしました。これがMarketo（マルケト）です。とにかく操作性を重視し、機能をシンプルに絞って、直感的にすぐに使いこなせるMAというポジションを獲得し、猛烈な勢いでユーザーを獲得しました。米国の友人から「簡単で安いEloquaみたいなソリューションが出てきたよ」とMarketoの存在を教えてもらったのを覚えています。Marketoは当初、より多くの企業が存在する「中堅以下」という市場をターゲットにしたこともあって、今では導入企業数ではEloquaを越えるまでになっています。
Marketoの特徴は、経営幹部のチームワークの良さです。2006年の創業からIPOを果たしてグローバルカンパニーに急成長した現在まで、ほとんどの創業メンバーが残っており、今もPhil Fernandezが指揮をとっています。米国ではMarketoをさしてマーケティングテクノロジー界のU2のようだと言われるのはこれが原因なのです。
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