院外で電子カルテを閲覧して大丈夫なのか

 広島大学病院がタブレット導入の検討を始めたのは、2014年7月のことだ。「当時、iPadを一人1台導入した病院の事例もあったが、当院で医師全員に配るのは現実的ではなかった。限定的な台数で効果を出せる適用法を考えるところから始めた」(河本氏)。そこで着眼したのが、「診療現場で使えるものが作れて、しかも100台あればできそうな」(同)入院患者向けの診療支援という用途である。

 2014年10月には、入院患者向けの診療支援ツールとして、院外からも電子カルテを安全にタブレットで閲覧できる仕組みの構築を決定。キャリア各社からヒアリングするなどして情報を収集し、入札に向けて仕様をまとめた。

 タブレット端末については、ユーザーによる改変が比較的しにくいことから、iPadを選択。携帯性と、画像診断に必要な解像度を両立できる機種としてiPad mini Retinaディスプレイモデルに決めた。事前に放射線科医に確認したところ、画像を拡大しても診断上、大きな問題はないとの評価だったという。

 だが特に気を遣ったのはセキュリティ対策だ。「院外で電子カルテを見るという用途は当初想定していなかったため、情報漏えいや端末紛失などの不安は大きかった」と河本氏は語る。

業務に不要な機能を徹底的にそぎ落とす

 広島大学病院で現在使われているiPad miniの画面を改めて見ると、通常iPadのホーム画面に表示されているアイコンがまったく無いことに気付く(図)。これは電子カルテ専用端末として、不要な機能をすべてそぎ落としているからだ。

写真●広島大学病院が導入したiPad miniのホーム画面(左)と、電子カルテのログイン画面
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写真●広島大学病院が導入したiPad miniのホーム画面(左)と、電子カルテのログイン画面
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写真●広島大学病院が導入したiPad miniのホーム画面(左)と、電子カルテのログイン画面
写真●「iPadの機能はかなり封印している」と話す病院情報システムグループの多賀信政氏
写真●「iPadの機能はかなり封印している」と話す病院情報システムグループの多賀信政氏

 病院情報システムグループ主査の多賀信政氏によれば、「Safariなどの汎用ブラウザは使用禁止で、電子カルテ専用のブラウザだけが使えるように設定してある。音楽再生や録音、カメラ、スクリーンショットなどの機能も、情報漏えい対策としてすべて封印してある」という徹底ぶり。もはや、iPadではなく、電子カルテ専用端末と考えた方がよさそうだ。さらに、情報漏えい対策として、閲覧した入院患者のデータは電源を切ると自動消去されるようにしている。

 入札の際の仕様書には、こうしたセキュリティ管理に必要なMDM機能や、24時間体制のヘルプデスク窓口などを盛り込んだという。