大学病院ならではの知見をスピーディに診療に生かす

 広島大学病院が「入院患者の診療支援」を目的に、KDDIからiPad mini Retinaディスプレイモデル100台を導入し医師に配布したのは、2014年12月のことだ。同院には常勤、非常勤を合わせて715人の医師と234人の歯科医師がいるが、そのうち、入院患者をもつ診療科の医師が配布の対象である。

写真●「診療を支援する業務用端末としてiPadを導入した」と話す河本昌志教授
写真●「診療を支援する業務用端末としてiPadを導入した」と話す河本昌志教授

 同院の病院情報システム統括責任者を務める広島大学医学部副学長の河本昌志教授(麻酔蘇生学)は、「iPadを医師全員に配布する病院もあるが、必ずしも効果は明確でない。当院では単に便利な端末としてではなく、診療支援に特化した業務用端末として導入したいと考えた」とiPad活用についての基本方針を語る。

 院外で安全に電子カルテを閲覧できる専用iPadを使えるようになったことで、コンサルトの確度や効率は大きく向上した。冒頭のような例についても、「以前だったら、このような場合、病棟の担当医が自分の力量で画像を読むしかなかった。例えば消化器内科の先生が頭部CTを読むとなると、専門外なのでおおざっぱなところは分かっても、微妙なニュアンスが読み切れない。それを電話で放射線科医に説明するが、結局は『よく分からないから、今から(病院に)行くよ』となるのが常だった」と河本氏は振り返る。

 医療の現場において、専門医のコメントには相当の重みがある。河本氏は、「放射線の専門家が読んだ所見というのはかなり重要視されるので、その後の治療に大きく反映される」と話す。冒頭の例で言えば、消化器内科医が「くも膜下出血かもしれません」と言って脳外科の医師に相談するよりも、「放射線科の●●先生がくも膜下出血と診断しています」と言って相談する方がはるかに説得力があり、その後の治療のスピード感も違ってくる。