「OSS(オープンソースソフトウエア)開発者に聞く!コミュニティー活動の実際」という連載を、日経LinuxとITproで約1年前から連載している。1年たって振り返ってみて気付いた。実はこの連載に登場した開発者のほとんどが、仕事としてコミュニティの中に入ってOSSを開発している人々だったのである。

 OSSはボランティアによって開発されているというイメージがある。もちろん無償で就業後や休日に開発している人のほうが絶対数は多い。しかし、インタビュー対象として「有名で活発に活動している方」を探したところ、期せずして「給料をもらってOSSを開発している人」が多数派になってしまったというわけだ。

コミュニティへの還元が長期的に企業のメリットに

 なぜ企業は給料を支払ってOSSを開発させるのか。Linuxカーネル開発者を抱える富士通、日立製作所、NEC、IBM、HPなどの場合、Linuxを搭載したサーバーを販売している。公開されているものをただ使えば、別に開発に参加しなくともいいという考え方もあるかもしれない。しかし、ある追加機能を独自のコードとして付加すると、カーネル本体のバージョンアップに合わせて修正やテストを行わなければならず、コストがかかり信頼性を確保することはなかなか難しい。ならば、コミュニティにその機能を提供して取り込んでもらうことで、バージョンアップへの追随が容易になり、信頼性も向上する。

 連載に登場した中では富士通の亀澤寛之氏日立製作所の平松雅巳氏がそういった例だ。VA Linux Systems Japanの山幡為佐久氏は企業から依頼を受けて開発を行う立場だが、上記のようなコミュニティへの還元のメリットを理解している企業から依頼を受け、OSSコミュニティーの中に入って開発しているという。

 OSSのサポートを手がけながら、OSS本体を開発している人もいる。SRA OSS 日本支社長でPostgreSQLコミッターの石井達夫氏などがその例だ。もっとも石井氏がPostgreSQLの開発を最初に手がけたときは、趣味としてだったそうだ。

業務利用と複雑化でボランティアだけでは限界

 OSSが業務で利用されるようになり、また巨大で複雑になったことで、ボランティアでは追いつかなくなってきた状況もある。Linuxの場合はLinus Torvalds氏が非営利組織The Linux Foundationにフェローとして雇用されているのをはじめとして、多くの開発者がフルタイムで開発にあたっている。The Linux Foundation ジャパンディレクタ 福安徳晃氏は、同団体の最も重要なミッションはLinusを雇用することだと語る。

 Rubyの場合でも、まつもとゆきひろ氏はネットワーク応用通信研究所のフェローやRuby SaaSベンダー Herokuのチーフアーキテクトなどとして、笹田耕一氏と中田伸悦氏はHerokuの社員として、Rubyの開発を仕事にしている。また、まつもと氏が理事長を務める普及団体のRubyアソシエーションは、Rubyの安定版の保守をTOUAの中村宇作氏に委託した。「メンテのような面倒な仕事は、誰もあまりやりたがらない。でもRubyがビジネスに利用され、高い品質が要求されるようになってきた。だから、仕事として委託した」(まつもとゆきひろ氏)。