IFRS(国際会計基準)を巡る現在の日本の状況は、J-SOX(日本版SOX法)を巡る状況と一見似ている。登場するプレーヤーも重複している。「J-SOXの時に懲りたのに、また同じ苦労を強いられるのか」と渋い顔をする人もいるだろう。J-SOX、IFRSの双方に精通し、「国際会計基準プロジェクト」の主要メンバーである日経情報ストラテジー日経コンピュータの島田記者とディスカッションした。


筆者(以下、T) 韓国に行ってたそうだね。楽しかった?

島田(以下、S) ええ、とっても! ちょうどワールドカップ韓国戦の日だったので、パブリックビューイングの会場を観ることができました。韓国は7車線道路を通行禁止にして、パブリックビューイングの会場を作るんですよ。試合が午前3時半からなのに、深夜0時に会場は満員でした。

T それはすごいね…って、今回の目的は仕事のはず。しかもIFRS対応を終えた企業への取材という難関があったんだよね。そちらは無事済んだ?

S もちろんです! 私はいつも仕事優先ですから!

T ああ、そうだっけ…(過去を思い出している)

S …それは置いといて、韓国取材はとても有益でした。韓国鉄鋼最大手ポスコのIFRSプロジェクトチームに取材できたほか、監査法人やITベンダー、コンサルタントなど、色々な角度でIFRS対応の話が聞けました。

T 韓国は来年(2011年)からIFRSのアダプション(強制適用)が始まるんだっけ。

S ええ、1年前にあたる今年に入って準備を終えた企業が多いようです。「ひと段落したからこそ分かる注意点」など、日本企業にとって役立ちそうな情報がたくさん得られました。

T ちょうど今日(8月4日)付の日経コンピュータに記事が載っているんだね(クローズアップ「韓国にみるIFRS対応の真実」)。この記事は自分も少しかかわったけど、ポスコの事例は多くの日本企業にとって参考になると思う。

「SOXの時に早く準備しすぎて損をした」

T ところで、確か韓国にはSOX法(サーベインズ・オクスリー法)に当たるものがあったよね。韓国では、内部統制とIFRSの関係って話題になってるのかな。

S J-SOXのように、韓国でも「K-SOX」と呼ばれる内部統制報告制度があります。韓国での取材の時は、IFRS対応の話をしているとこちらから話題を持ち出さなくても内部統制の話題になりました。

T 韓国でもそうなんだ。

S 「K-SOXの時に早く準備をし過ぎて損をしたと思った企業が、IFRSの時は後発の利を狙ったら対応が間に合わなかった」という話もありました。日本も同じようなことが起こりそうだなって思いました。

T K-SOXは日本や米国と違って監査レベルの内部統制評価は求めていないと思うけど、事情は似ているんだね。IFRSとJ-SOXって、本来は同じレベルで語るべきものではないけど、何か通じるところが多いように感じるんだな。

 どちらも会計にかかわるだけでなく、連結グループ全体の経営管理に強く関係する話題だし、時期が決まっていて(IFRS適用は見込みの段階)上場会社に対してそれなりに厳しい“縛り”となる点も共通している。主導しているのは金融庁だし、監査法人、コンサルティング会社、ERPパッケージベンダーなどプレーヤーも似通っている。ITに関して言えば、どちらも情報システムが重要な役割を果たす。IT業界がビジネスチャンスとして期待を寄せているのもよく似ている。

S ITproのFocusサイト「IFRS」も、以前は「内部統制.jp」サイトでしたよね。

T その間には「内部統制.jp/IFRS」サイトの時期もあった。同じサイトでIFRS、J-SOX双方の話題を載せても違和感は特に持たれなかったようだね。サイトを訪れる人が共通しているからじゃないかな。

 で、何よりIFRSとJ-SOXに共通しているのは当事者、つまり両方の対象となる企業の「またか」って感覚ではないかと思うんだ。J-SOXの時に、対象となる各社は全社挙げての文書化や統制の整備、有効性評価、監査人とのやりとりなどに膨大なエネルギーを投じた。日経コンピュータでも何回も特集で取り上げたよね。もちろん、その結果得られた内部統制の仕組みがそれなりにプラスになっているのは「内部統制ラウンドテーブル」(関連記事)でもわかる。

 だけど少なくとも上辺だけを見る限り、「重要な欠陥」は初年度で3~4%、2年目はもっと低くなりそうだ。「あれだけ苦労して、こんなもの?」と企業が感じても不思議ではないと思うんだ。

S うーん、確かにそうかもしれませんね。米国では初年度、重要な欠陥を開示した企業は15%だったと言われています。それに比べて日本の割合が低いというのは、内部統制ラウンドテーブルでも話題になっていました。制度も国も異なるので正確には比較できませんが、想定していたよりもJ-SOXは“軽い”制度だったと受け止められている気がします。