写真 ボーダフォンが12月17日に発売した「702NKII」
写真 ボーダフォンが12月17日に発売した「702NKII」
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 携帯事業者各社が端末のオープン化を推し進める中,ボーダフォンが10月に表明した戦略は他社の戦略とは明らかに一線を画していた。その戦略とは,企業の業務システムと携帯電話の連携を大幅に強化することをねらい,同社のバックボーンの網機能(コア・サービスと呼ばれる)を開放するというものである。

 バックボーンの網機能のオープン化は,端末のオープン化とは全く別の話。スマートフォンなどのオープン端末は,従来よりも多くの端末内蔵機能をアプリケーションから制御できる。しかしそれが実現してもなお,企業は携帯電話をまだまだ生かしきれていない。それは,携帯電話で使えるサービスの多くは今もなお,閉鎖的な環境下で提供されているからだ。

 携帯電話で使えるサービスは音声通話とメール,Webだけではない。情報伝達手段だけでもSMSやPTT(push to talk),位置情報など,ほかにもあまたある。ところがこうしたサービスのほとんどは,携帯電話間だけでしか使えない。つまりそれをオープン化して,外部のシステムから操作できるようにするというのが,新戦略の骨子である。

多くの携帯電話用サービスを業務システムから制御

 企業にとってコア・サービス開放のインパクトは大きい。企業から社員の携帯電話への情報伝達の利便性が,飛躍的に高まるからだ。想定例だが,社員の携帯電話からプレゼンスを取得して,圏内にいる社員にPTTで一斉指示を出し,圏外の社員には留守電にメッセージを送る。こうした情報伝達を,業務システムから自動的に行えるようになる。

 しかも開放対象となるコア・サービスは相当数にのぼる。SMSや端末が圏内にいるかといったプレゼンス,位置情報などがその一例。音声通話や留守番電話,PTTなどの音声系のサービスも,コアを通じて提供されている。端末にインストールされたアプリケーションを把握するデバイス管理,課金などもコア・サービスの一種である。

新サービスで「出先も社内と同じように」

 既に携帯電話と連携が取れている業務システムもある。その最たる例がメールやスケジュールを利用できるグループウエアだ。しかしその連携もまだ十分とはいえない。例えば社員は,Webを通じて携帯電話から企業のグループウエアを利用できる。しかしWebだと圏外では内容を見られない。またユーザーが自らアクセスして閲覧しに行かなくてはならない。メール転送サービスなどを利用すると,業者の設備に重要な企業情報や個人情報を含むメールが蓄積されてしまうため,セキュリティ面で課題が残る。

 こうした現状を打破するべく,ボーダフォンは携帯電話と企業のシステムをより密接に連携させる第一弾として,グループウエアとの同期サービスを1月18日に開始する。「ボーダフォン・オフィス・メール」だ。携帯電話と社内のグループウエア・サーバーを同期させる。両者を常時接続しておき,リアルタイムにメールやスケジュールを同期させるという,これまで見られなかった手法を採用している。

 このサービスを使うと,グループウエア・サーバーに登録した新着メールや新規登録スケジュールは,すぐにプッシュで自動的に届き携帯電話に蓄積される。その内容は圏外でも確認できる。サーバーと携帯電話でやり取りするメッセージは暗号化されるため,通信経路上のサーバーなどに蓄積されることもない。対象機種は12月17日に発売した「702NKII」(写真)だが,今後増やしていくという。

 携帯電話を業務利用する目的は,生産性の向上に尽きる。その近道となるのは,携帯電話を活用して機動力を上げることだ。「音声通話とEメール,Webしか使えない」あるいは「いつでも,どこでも使えるとまではいかない」といった制限が多すぎる現状では,機動力の大幅向上は望めない。ボーダフォンがこうした現状に一石を投じた意味は大きい。

(山崎 洋一=日経コミュニケーション

【集中連載 業務利用を一変させる携帯「オープン化」の衝撃】の特集ページはこちらをご覧下さい。

【集中連載 業務利用を一変させる携帯「オープン化」の衝撃】記事一覧
●(1) 無線LAN携帯のソフト“開放”で先行ドコモを追撃するKDDI(12月19日)
●(2) NTTドコモ初のオープン端末に業務アプリが続々登場(12月20日)
●(3) ウィルコムが投入した日本初のWindowsスマートフォンに,ソフト大手が集結 (12月21日)
●(4) 新機軸「バックボーンの網機能開放」で革命を起こすボーダフォン(12月22日)