RIA(Rich Internet/Interactive Application)と呼ばれる,高度な表現力と操作性を持つWebアプリケーションが注目されているが,最近の大手各社の動向を見ていると今後その具体的な利用シーンが急速に広がっていくような気がしてならない。中でも米Microsoftの「Silverlight」,米Appleの「iPhone」,米Google傘下の「YouTube」に見られるここ最近の動きは見逃せない。各社に共通するキーワードは「デベロッパーの取り込み」と「パソコン以外の分野への進出」。今回はこの3社の最新動向を通じて,今後の展開について考えてみたい。

MSのSilverlight,オリンピック映像を配信へ

 Microsoftの「Silverlight」は,メディアの再生やインタラクティブなWebアプリケーションを実現する技術で,米Adobe Systemsの「Flash」対抗とも言われている。Microsoftが3月の第1週にWeb関連技術のカンファレンス「MIX08」で発表したのはその最新版「Silverlight 2」のベータである(関連記事:米MicrosoftがSilverlight 2のベータ版をリリース

 まず,そのSilverlight 2が今後どんな使われ方をするのか具体例を見てみよう。MicrosoftはMIX08でSilverlightの事例をいくつか紹介したが,中でも我々が今すぐ体験できる事例として次のようなものがある。Hard Rock Cafeの音楽関連コレクション紹介ページ「MEMORABILIA」(関連記事:AOLがWebメールをSilverlightベースに,MIX08で明かされた次世代RIA基盤の姿)と,Cirque du Soleil(シルク・ドゥ・ソレイユ)の公式Webサイトだ。前者では「Deep Zoom」と呼ぶ,クリック/スクロール操作で高精細な写真を高倍率で高速に拡大/縮小する機能が披露されている。後者は動画をフィーチャーしたインタラクティブなアプリケーションだ。Silverlightの技術を使ってシルク・ドゥ・ソレイユの世界観をうまく表現しているという印象を受けた。

 今後の展開としては米NBCの事例が大規模で興味深い。NBCはそのオリンピック向けWebサイトでこの夏,合計2200時間に及ぶ競技関連映像をSilverlightを使ってWebキャストする計画。今その準備を着々と進めているという。

 また日本のMacintoshユーザーにとって朗報になりそうなのが,USENのパソコン向け動画配信サービス「GyaO」だ。同サービスはWindows Media形式で配信されていることから,利用しているDRM(デジタル著作権保護)もWindows Media。それ故これまではMacintoshユーザーへのサービス提供が困難になっていた。しかしSilverlightがMacintosh環境でも利用できるクロスプラットフォームであることと,今後DRMの実装が予定されていることから,USENは2007年9月,GyaOでSilverlightを採用すると発表した(関連記事:【REMIX07】USENが「GyaO」をSilverlightへシフト,Mac対応とDRMに期待)。現在は実験的に映画予告編ページで,5つのコンテンツを配信している。

 同社は,SilverlightのDRM実装と,Webブラウザ向けプラグインの普及に大いに期待しつつ,Silverlight対応の準備を着々と進めているようである(USENは,Silverlightプラグインの普及を後押ししたいようで,プラグインをインストールしたMacintoshユーザーを対象に,抽選でMacBook Airなどをプレゼントするという「Silverlightキャンペーン」を行っている)。

AOLやNokiaも採用,普及のけん引役となるか

 Silverlightは当初もっぱら,高精細画像/映像配信に特化した技術ととらえられていたが,今回新版が公開され,同技術がそれだけにはとどまらないことが明確になった。その一例がAOLのSilverlight版Webメールだ(関連記事:AOLがWebメールをSilverlightベースに,MIX08で明かされた次世代RIA基盤の姿)。AOLは,Silverlight 2のRIA技術を使って,デスクトップ・アプリケーションのように動作するWebメール・アプリケーションを開発した。このWebメールはまだ開発途中だが,AOLはすでに自信を示している。発表資料の中で,「業界を先導するパフォーマンス,スキン機能,リッチメディア・コンテンツと広告配信が可能な環境」などと説明し,その出来栄えの素晴らしさをアピールしている(AOLの発表資料)。

 Silverlight 2の発表と時を同じくして明らかになったのが,フィンランドNokiaのSilverlight採用計画(関連記事:NokiaがMicrosoftの「Silverlight」を採用へ,S60プラットフォームに年内搭載)。Nokiaは,同社携帯端末のOS「Symbian OS」で動く「S60」や「Series 40」といったアプリケーション・プラットフォームでSilverlightを採用する。同社は世界最大のスマートフォン・メーカーで,その市場シェアは約53%。今後,Silverlightの普及に大きく貢献することになるのだろう。

.Netのスキルが使えるアプリケーション実行環境

 Silverlightはこれまで,RIA表示用のWeb技術と説明されることが多かったが,こうしてみると,その実体は「Adobe AIR」と同様の,アプリケーション実行環境ということがよく分かる。しかもパソコンのWebブラウザだけでなく,デスクトップや携帯端末など,さまざまな分野での利用を想定したクロスプラットフォームのアプリケーション環境だ。

 Flashがすでに広く普及していることから,これまではSilverlightの普及について懐疑的に見る向きも少なくなかった。しかし今回のSilverlight 2発表後,海外の各メディア記事などをみた限りでは,大変評判がよいという印象がある。Silverlightの前版がビデオ再生に特化していたのに対し,新版は,.Net開発環境を拡充し,各種のトランザクション機能を盛り込んだ。こうした方向性が明確に示されたことで,SilverlightはFlashとは異なる路線で普及していくのではないかという意見が出ている。例えば,InfoWorldの記事では次のように報じている。

 「Flashがデザイナーやクリエイターに広く使われている技術であるのに対し,Silverlightは.Netのスキルが生かせるといった理由から,アプリケーション開発者に好まれる技術といえる。どちらもインタラクティブなユーザー・エクスペリエンスを追求するという点で目的は同じ。しかしアプローチが異なるのだ」---(InfoWorldの記事)。

 なるほど。これはFlashとSilverlightの違いを端的に表しているのかもしれない。確かにどちらが優位ということでもない。単にMicrosoftがSilverlightで取り込むのはクリエイターではなく,デベロッパーというアプローチの違い。しかもデベロッパーはMicrosoftが慣れ親しんでいる人々。Microsoftがそこに重点を置いたのは自然なことなのかもしれない。